信用できない国ロシアと付き合う方
ロシア外交菅総理に申す(産経新聞H23.2.10) ユーモア外交 前原外交決裂
平成21年(2009年)7月8日水曜日 日露は「遠い隣国」でよいのか 日本財団会長 笹川陽平 全面返還は当然の要求 5月のロシア・プーチン首相の蝋来日で改めて北方領土問題が注目を集めている。8日から始まるイタリア・G8サミットでの日露首脳会談のテーマとなる可能性もある。四島が歴史的に日本固有の領土であり、全面返還が当然の要求であるのは論をまたない。しかし戦後60年を経て国際情勢は大きく変化した。北方四島が持つ軍事的価値も低下し、返還運動の風化も否定できない。威信回復を目指すロシアにとってシベリア、北極海に眠る豊富な天然資源開発の成否は将来を左右する重要課題となり、ロシアの姿勢にも変化の兆しがうかがえる。「返せ」と叫ぶだけでは、外交交渉は進展しない。シベリアの天然資源、とりわけ天然ガスや石油は中東地域だけにエネルギー資源を依存する日本にとって、安全保障を強化する上でも欠かせない存在であり(ロシアにとって資金・技術力を備えた平和国家・日本に勝るパートナーはない。ならば双方の利益の一致点を探ることで、膠着した領土問題を解決する糸口を見いだすことができるのではないかー。日露双方が相手を「必要な国」と認め、ロシア政府が国民に「四島を堅持するより返還した方がトク」と説得できるようなスキームである。 笹川平和財団では1993年、日米露3国の専門家の協力で「日・米・ロ新時代へのシナリオ」をまとめ、北方領土間題解決に向けた提案を行った。時代も変わり、さらに幅広い知恵が必要となる。まずは政官民参加型の本格的な組織を立ち上げ、あらためて対露総合戦略を検討するよう提案する。ロシアが直面する問題のひとつに東シベリア地域からの人口流出がある。ザ・バイカルと呼ばれるバイカル湖以東の人口は現在約650万人。一時に比べ200万人近く減り、今も入口減少が続いている。代わって結婚や労働者として流入する中国人人口が10%近くまで増え、ロシアの対中警戒感が高まる結果となっている。 双方に利益ある構想を背景に帝政ロシア、ソビエト時代を通じて一貫して搾取の対象となったこの地域の貧しさがあり、シベリア地域の開発、発展の確保がロシア政府の喫緊の課題となっている。産業を興し就業先が確保されれば、人々の生活は安定し、北方四島に住む約1万7000人のロシア人の受け皿にもなる。シベリアの中でも沿岸地域には過去、いくつかの日本企業も進出した。しかしロシア側の法律の未整備などもあって多くは撤退した。法律など必要な基盤が整備されれば、改めて進出する日本企業も増えよう。 必要な改革をロシア政府に促し、沿岸地域と北海道を、双方が自由に投資できる自由貿易圏とするような構想も検討されていい。乱獲で荒れたタラバガニや花咲ガニの漁場を共同管理する一方、サケなど日本の優れた養殖技術を提供し、双方の将来の食料資源確保に役立てるのも一考と思う。いずれにしても求められるのは、ロシア側だけでなく、日本にとっても有意義で利益のあるスケールの大きな構想である。落ち込みが目立つ北海道の活性化も視野に入れる必要がある。 同時にロシア人の日本知識はあまりに少なく、人脈も驚くほど細い。まとまった戦略を日本のメッセ-ジとして発信し、ロシア国民の日本理解を促進するとともに、人脈づくりを急ぐ必要がある。第二次大戦でロシアと戦った日独両国はともにロシアとの間に平和条約を持たないが、日露とは逆に極めて密接な独露関係を見ると、これまでの取り組みの見直しも必要となろう。 領土間題というトゲ抜け ロシアが四島を占拠した経過やその後の対日姿勢に、根強い対露不信があるのは承知している。しかし日露両国が21世紀も「遠い隣国」であり続けるわけにはいかない。米国の一極支配が崩れ、新たな秩序が模索される国際社会の中で日露関係も当然、変化せざるを得ないからだ。資源一つをとっても、中国、インドの台頭で今後、争奪戦は一層激しさを増す。マラッカ海峡を経て中東に至るシーレーンも、中国の海軍増強などで、今後も日本を支える生命線として安全に機能する保証はない。新たな供給源の確保は安全保障上も必要である。地理的に輸送コストも安いシベリア資源は十分に選択肢の一つになり得るし、日本にとって決して悪い話ではない。 そのためには足かせとなっている領土問題の呪縛を解く必要がある。その場合、領土は国の威信、存在にかかわる重要問題であり、歴史的経過、国際法上も四島全面返還が前提となる。条件は厳しいが、新たな組織で各界から広く知恵を集めれば、双方が「ウインウイン」の関係を築けるような提案は必ずできると信ずる。その時初めて領土間題という"トゲ"が抜け、21世紀の両国関係に展望が開けてくる。今、求められるのは、そうした知恵と環境づくりである。(ささかわようへい)2009,7,8 |