情報源:産経新聞:オピニオンプラザ「私の正論」H20('08)11.11

国民統合の祖 日本 愛郷心 土光杯

「入選」国の将来を憂え、実行できる人材育成を・・・清野勝彦せいの・かつひこ(46歳 神奈川県・塾講師)

 
今、NHKの大河ドラマ「篤姫」が高い視聴率を取っており、新聞、雑誌などでは何が支持されていて人気が高いかを分析している。強い意志をもった女性が主人公であることが今の女性に受けているのではないか、時代劇ではあるが、斬り合うシーンがほとんどないのがいいのではないか、主演の宮崎あおいさんの好演が光っているからでは、などそれなりに納得できる分析ではある。しかし、私は初回からずっと見ていて、これは登場人物が男性、女性にかかわらず、佐幕派、倒幕派、開国派、穣夷派かにかかわらず、皆が日本の行く末を案じているという点で共通しているからストーリーに筋が通っていて、安心して楽しめるのではないかと思っている。

 もちろん、現実には日本のためというよりも自分のため、または自らの藩のために行動した部分もあろうかと思うが、ドラマでは歴史上の大きな転換点となる出来事の場面では必ず「日本のため」というセリフが出てくる。象徴的なのが、徳川家に降嫁するのを断固として拒否する和宮を、孝明天皇が「日本のために行ってくれ」と説得し、それならと和宮が承知する場面だ。また、一般的には悪役のイメージがあり、このドラマでも篤姫の敵役のような存在であった大老・井伊直前も、日本のためにあえて厳罰をもって安政の大獄を行い、自分の仕事を全うした人物として好感をもって描かれている。つまりこのドラマには根っからの敵役はいないのだ。それが人気の秘、密だと考える。そして、そのためのストーリー展開のキーとなるのが「日本のため」というフレーズだ。一時的に立場、主義主張が異なったとしても、皆が日本のために自分の本分を尽くすから見ていて後味がいいのだ。
    
 翻って今の日本ははたしてどのくらいの人間が日本のため、という考えで行動しているだろうか。いつの間にか個人主義、個性尊重の風潮の中で自分のことしか考えない人たちが増えてしまっているように思えてならない。これを突き詰めていくと、ダッカ・ハイジャック事件の時の福田赳夫首相の「人命は地球より重い」という発想になってしまう。もとより、福田首相の発言も根本原理に言及したものではなく、犯人の要求に応じて超法規的措置をとったことへの釈明であったと思うが、言葉とは一度放たれてしまうとどこへどのように飛んでいくか分からない。いつのまにか個人、個性を第一に考えることが正解で、全体のことを考える、私利私欲を捨てて滅私奉公する、ということは間違った考えであるという風潮を広めてしまった。

 本来、個人を尊重するということと国全体のことを考えるということは反しないはずである。個人あっての国家であり、国家あっての個人だからだ。しかし、戦後の日本ではどうも個人と国家は対立する概念のように受け取られている。これはひとえに教育の問題であろう。子供の個性を生かす、と言っておきながら実態は子供に早くからスポーツや音楽の英才教育を施し、あわよくばその道のプロになることを親が夢見る。または机上の学問ばかりにたけた子供を育て、東大を頂点とした一流大学に入れることのみに腐心する。スポーツも芸術も学業も同じようにがんばればいいのに、なぜか早くから一つに絞ろうとするのが日本の教育だ。本当の意味での文武両通が育たない。また、現実の世の中は複雑で入り組んでいて、わかりにくいこと、それだからこそ学問をすることに意味があるということ、なぜ先人たちは立場こそ違え日本の将来を案じて一命を賭したのかなどを時間をかけて教えることも必要だろう。そうすれば国のため、郷土のため、家族のために努力をすることの大切さ、そしてそのためには個性を尊重することが必要であることが子供にも伝わるはずである。

 何も天下国家を論じることを優先すべきだ、と言っているわけではない。将来を考えるにあたっては、職業としての収入や安定性などばかりでなく、自分がどのように世の中の役に立つかを考えることが大切だ、と言っている。そのことをしっかりと教えれば子供はおのずと自分のやりたいことが見えてくるだろうし、真剣に物事に取り組む意欲も出てこよう。職業柄、今の中高生と数多く接していて、一番感じるのはこのことである。小学生ならいざ知らず、中学や高校に行く年齢になっても自分の興味、適性がわからず漫然と時を過ごしてしまう生徒が少なくない。 木戸孝允、西郷隆盛、大久保利通といった、すぐれた実績を残し維新三傑と呼ばれた人物だけでなく、高杉普作、吉田松陰、坂本龍馬といった維新を見ることなく世を去った若者たちのような、国の将来を憂え、自分で策を講じ、実行できる人材を数多く生み出すことこそが今の日本の進むべき道であると考える。

 
入選してひと言「望外の喜びです。今回は大きなテーマだったので、思い切って身近な所から感じたままにまとめてみました。この入選をこれからの人生の励みにしたいと思います」