アノミー(Anomie)の恐怖


 世紀末、なにゆえいいかげんな宗教が猖獗(しょうけつ)を極めるのか。世の若者たちがどうしてデタラメな カルト教団に群がるのか。ただし、この問いはもはや宗教の問題だけではない。社会学の範疇にも属するというべきだろう。そこでカルト教団の行動様式と、連合赤軍などの新左翼の行動様式を比較してみたところ、全く同じなのである。無差別殺人、盲目的行動、そして、世の中を阿鼻叫喚の渦に突き落とす。  

 その新左翼が下火になつたのは一九七五年(昭和五〇年)前後のことである。それから二〇年近くたってカルト教団に姿を変えたわけであるが、ではその間彼らは一体どこに行っていたのか。そこで思い当たるのが親子殺し合いの家庭内暴力、いじめ、さらには最近とみにエスカレートした少年犯罪である。新左翼が下火になつた頃からはじまったこれらの家庭内暴力・いじめ・少年犯罪は、新左翼やカルト教団と行動様式が全く同型である。

 新左翼の場合、中核と革マルの闘争は、要するに殺すことが目的だつた。理由などはなく、ただ殺我が目的なのである。主義が違ったというなら、彼らは日本共産党を、いやいや、それ以上に自民党を殺さなければならなかった。 いまのいじめにしてもまた然り。古典的ないじめは、ガキ大将がいて「俺の子分になれ」といっていじめたものだ。ところがいまや、誰が誰をいじめたっていい。いじめのベクトルが縦横無尽、変幻自在となつた。誰が生贄になつてもおかしくないし、誰がいじめる側に立ってもいい。全くの無差別・無目的という異常ぶりだ。
                                           
 家庭内暴力もまた同様で、「えツ、あんな子が」といわれるような子供が親を殺す。これもまた不条理である。 それらの延長線上に、最近のまさに目をそむけたくなるような、少年の凶悪犯罪の多発がある。まず新左翼、それから家庭内暴力、いじめ、そしてカルト教団…。比較分析すると、原因は皆同じ答えを指し示す。 アノミーである(三八二頁参照)。

いい教育を受けた人間が馬鹿らしい教義を信じたり、社会の中枢に立つべき人間が毒ガスや毒物を製造する。皆が皆、大変な病気にかかってしまった。少年や若者だけが病んでいるという話ではない。社会のトップ、例えば政治家だつてアノミーだ。かくして、アノミーに冒され、箍(たが)のはずれた桶のようになつてしまった日本社会ー。
   
 日本を救う要諦は宗教家、宗教学者、宗教評論家がもっともっと宗教を理解すること、いや、あなた自身が宗教を理解することである。ここまでこの本をお読み下さった読者は、すでに宗教の本質をおわかりのことと思うが。世相ははますます混乱の様相を呈している。宗教事件ばかりか、幼児殺人、少女監禁…、眼を覆わんばかりの悲惨な事件が引きも切らない現代日本。アノミーは解消されるどころか、ますます進行の一途をたどつている。日本が壊れるどころか、日本人が壊れてきているのだ。

 新世紀、事態はさらに悪化するであろう。ことここに至れば、日本を救うのも宗教、日本を滅ぼすのも宗教である。あなたを救うのも宗教、あなたを殺すのも宗教である。本書をここまでお読みになつた読者は、宗教の見分けかたを体得されたことと確信する。   
コメント:この本はまさに世紀末2000年6月に発行された。今は、2004年・・・。この現実!!???
    
(情報源:『日本人のための宗教原論』小室直樹著 徳間書店、¥1,800)