はしがき「鬼の首を取る」
・・・松永の激しさを知る者の一人として、なんとかこの意表外な人間を、よきにつけ、悪しきにつけ伝えるのもムダではなかろうと、これまた、写真界の鬼才、杉山吉良氏ならばと狙いを定め、引き合わせたことがあった。 私と松永翁がいろいろ議論したりしている隙をカメラが狙うわけだが、さすがその道の豪の者、鬼を撃ち取らんとの気概があったろう。松永の顔にパチパチとハエがたかるようにからむ。 松永とすれば、写真など”はいパチリ、写りました”というものという認識なので、とうとう怒り出して「俺は役者じゃない、さがれ」とどなられた。そこは吉良氏、なかなかの役者、言われたとたん「申し訳ありません、やめます」とその場に平伏した。 実は、吉良氏、余人をもっては不可能な、その形相(写真)を引き出すことに成功、千分の一秒とかで”鬼の首”をとった。この写真を見た文芸春秋社の池島信平社長が「吉良やった」と叫んだ。今日、「文芸春秋」巻頭グラビアの名物となっている”日本の顔”シリーズの企画がその時開いて、その第1回に登場することになった。 |