「信長・秀吉に匹敵」とトインビー博士
白雲悠々さえぎるものなし
「宇宙の神秘真髄は到底一人の頭脳をもっては極めることができない」と言うことを「世界の歴史」を書かれたイギリスのアーノルド・トインビー博士から私(宇佐美)が書いて頂いた言葉である。
それは、松永翁が博士を日本へ招かれた際、松下邸で、和紙に、もちろん毛筆によったもので、墨などというものを使われたのはおそらく博士としては空前絶後のことに違いない。そして、あわせてそこには、松永翁が、
「長空不礎白雲飛」
・・・白雲は悠々として大空を泳ぎ何ものもさえぎる物はないという意味・・・を併せ揮卓亳を賜った。
博士のものは勿論、翁の言葉も、誠に翁の人生と心境を表して絶妙である。

何故、こんなことを書き始めたかというと、宇宙でも、また一人の人間でも、他人がその真相を誤りなく伝えることは、至難の技であろう。私が本書で述べたことが正鵠を射たものかどうか、とうてい一人の人間がよくするどころか、あるいは迷惑至極なことかもしれない。翁のことはともかく、ともすると引き立て役にしつらえられて登場させられた諸氏に対してはお許しを乞わねばならないだろう。

ともあれ、私は、松永翁が、独力もって、終に電力王といわれるような巨大な事業を支配されるようになったのに、ファッショの台頭によってとりあげられるという、翁の後半生を近くに見ることができたもので、本書をしたためるのにふさわしい立場をもっているつもりである。宇佐美省吾