松下幸之助、本田宗一郎、井深大。社名を挙げなくてもよくご存知の名経営者である。 戦前、戦後を通じ「電力王」の名声をほしいままにした電力業界の“ドン”だ。 昭和初期、軍部や革新官僚らが唱える電力統制論に真っ先に反対し、敗戦直後の電力再編論議では全国の発送電部門を独占していた国営の電力会社をたった一人で分解、今日に至る9電力体制(沖縄電力を除く)を築き上げた人物である。 この正月休み、雑誌編集者に勧められ、松永を主人公にした『爽やかなる熱情』(水木楊氏著、日本経済新聞社) このように松永は、こうと決めたら一直線に突き進む行動力の持ち主だったが、単なる猪突猛進タイプではなかった。 エネルギー政策が水力中心の「水主火従」の時代に火力発電の推進を唱え、原子力にもいち早く着目。電力以外の分野でも早くから国鉄やタバコ、塩の民営化、東京−名古屋間の高速道路建設などを提唱、先見性にも優れた人物だったという。 翻って現在。日本は、1990年代のダメージから立ち直れず、いまだ混迷の真っ直中にある。しかし、「残念ながらいまの世には、確信を持って将来計画を明らかにし、どのような反対があっても正しいと信じれば突き進んでいくだけの度胸と力量を持つ者がいない」 筆者のこの指摘は、「残念ながら」正しい。 (経済ジャーナリスト 河原雄三) |