アインシュタイン「神を語る」から抜粋


 アインシュタインは言った。「まったくだ。人間性を向上させるのは知性ではない。直観なんだ。直観が、人のこの世における目的を教えてくれるんだ」ジェームズ師がたずねた。「あの世については、どうお考えですか?」「永遠を約束されることで幸せになりたいとは思わない」とアインシュタインは答えた。「私の永遠は、今、この瞬間なんだ。興味があるのはただ」

 ヘルマンス先生、あれはアインシュタインが話したのじゃなくて、「彼の霊が私の霊に語りかけたような気がするんですよ」私は答えた。「
アインシュタインは預言者なんだよ!

 超国家政府をつくるという計画に他の科学者がなかなかついてこないのは、どうしてですか? 彼は答えた。「
頭を切り替えたがらないからだよ。あらゆる間題の根底には、貪欲な人間の獣性がある。軍事的覇権の追求ほど、国家にとって危険なことはない。それはアメリカとロシアの双方がもっている計画なんだ。

 私は以前から、軍産複合体が人類を滅ぼすだろうと何度も訴えてきた。ことに、(剣によって生きる者は剣によって滅びる)という格言を忘れた無知な政治家どもが若者に軍人精神を吹き込もうとする場合にはね
」と私を見つめながら彼は続けた。

 「現に、たった数か月で数十万人もの若者が戦死したヴエルダンの戦場の生き証人が、ここにいるじゃないか」

 「国連は世界政府として機能できないのですか?」「
おそらくだめだろう」とアインシュタイン。「加盟各国が、てんでに武装したり、核兵器をもったりしているからね。しかし、われわれの考えを変え、人の心を変えることが一番重要だ。

 自分の良心に従う 宇宙的人間(コスミック・マン)を創らねばならない。


「その世界政府は原爆をもつべきなのでしょうか?」「
核兵器の国際管理が提案されるまでもなく、核兵器は廃棄すべきだよ。

 そうすれば、無条件に国際管理下におく合意ができたこと、さらに、われわれが取引も脅迫も威嚇もするつもりがないことがロシアに伝わっただろう。

 人類を守る最善の方法を知っているのは世界政府のみなのだから、世界政府は無限の統治権をもつべきだ。傘下の国家がもつのは制限付きの統治権だけにすべきだ」「
しかし、ロシアは拒否するでしょうね?あなたの案を却下しましたからね」

アインシュタインは言った。「
物質には永続性はないが、エネルギーにはある。エネルギーと結びついた物質が宇宙の実体なんだ」私はメモ用紙を取り出し、重要な言葉を書き留めるようにした。

 「
相対性理論はね」と彼は続けた。「時間と空間が絶対で独立したものだというニュートンの理論を廃し、そのかわり、それらが一体のものであると主張している。何年も考えたのちに、私はニユートンの重力概念を放棄した。

 私の重力理論は、惑星の運動に適切な背景をもたらす時空統一体の湾曲を仮定した。惑星や星雲や光線などの天体は測地線上を運動している。この湾曲した時空統一体の中の二点を結ぶ、最短で、かつ最も抵抗が少ない進路をたどるわけだ


 アインシュタインは身を乗り出した。「
牧師さん、それは人間が神様の姿に似せて造られた・・・ つまり擬人化だが・・・などと教える宗教じゃないんだ。人間には無限の次元があり、その良心の中に神を見い出した。

 この宗教では、世界が合理的であり、人は世界を思い、その法則を使って共に創造することが究極の神意である、という教え以外に教義はない。

 ただし、そこには条件が二つだけある。一つは、不可解に見えるものが日常のものと同じほど重要だということ。二つ目は、われわれの能力は鈍感で、表面的な知識や単純な美しさしか理解できないということだ。

 しかし、直観を通すことによって、人の心は、われわれ自身と世界について、より大きな理解をもたらしてくれるんだ。


 「
もう子供じゃない。君もそうだろう.私にとって、神はもう父親の姿をしていない。もちろん君は詩人だからどう思おうといいよ。神がどんな姿をしていようとかまわないが、神が創った世界がどんなものかは興味がある。

 神の意志は自然から読み取れる。関心があるのは創造の法則であって、神が長い白いひげを生やしているかどうかなどということではない。私は無限の一部だ。いっさいが(永遠のspecie aeternitates)の中にある


 「
ヘルマンス博士、私はしばしば国法と衝突する『なんじ殺すなかれ』という倫理規範に沿って生きることにのみ関心があるんだ

 「
私の宗教はモーゼが基本だ。神を愛し、自分と同じように隣人を愛せよ、というものだ。そして私にとって、神は[他のすべての原因の根底にある]第一原因なんだ。

 ダビデや預言者たちは、正義のない愛、または愛のない正義はあり得ないということを知っていた。それ以外の宗教的な飾りは不必要だ


 アインシュタインはほほえんだ。「
何でも知るだけのカはあるが今は何もわかっていないと悟ったとき、自分がさほど重要ではないと謙遜したとき、自分が無限の知恵の海岸の一粒の砂にすぎないと思ったとき、それが宗教者になつたときだ。その意味で、私は熱心な修道士の一人だといえる

 「
わが神は、君が考えている神とちがうかもしれないが、わが神について言えることは、私を人道主義者にしてくれたことだ。自分がユダヤ人であることを誇らしく思うのは、ユダヤ人が世界に聖書とヨセフの物語をもたらしたからなのだ。生涯私は、人の命を救うように努めることだろう

 「次に原爆が使われたら、私たちはみんなおしまいなのでしょうか?」

 「
そうは思わない。世界の人口の三分の二以下は死んでしまうだろうが、もう一度やり直すのに十分なだけの人間が生き残るだろうね

 破滅を防ぐ手だてはあるのですかとたずねた。

 「あるとも」とアインシュタインは言った。「
邪悪な心を征服さえできたらね。科学的手段に頼らず、われわれ自身が心を入れ替え、勇気をもって語れば、人の心を変えられるだろう。

 自然のカについての知識は惜しみなく分かち合うべきだが、それは悪用を防ぐ手だてを講じた場合にかぎられる。

 戦争と平和は同時に準備できないということを悟らねばならない。心を清めて初めて、われわれは世界を覆っている恐怖を振り払う勇気を見い出すだろう


 
もし、各宗派に注文をつけられるのなら、まず、自ら回心することから始めなさいと言いたい。そして権力政治をやめることだ。彼らがスペイン、南アフリカ、そしてロシアで、どれほどひどい災厄をもたらしたか考えてみたまえ

 「
教会が博愛主義という意味で多大な貢献をしたのは、ぜんぜん否定しない。が、残念ながら、その霊的権威がしばしば悪用されてきたと言わねばならない。権力の維持強化のために、教会はしばしば、自ら政治権力にへつらってきた

 「瞑想の修行をつんだ人々と英国で食事を共にした折、その中の一人の鈴木教授(
鈴木大拙氏のこと「大拙その2」)から、ぜひあなたにうかがってほしいと頼まれました。

 精神的波動と電気は同一の起源またはカから発しているのかと」「
創造の根源的な力はエネルギーであると信じている。それを友人のベルグソンはエラン・ヴィタール、ヒンドウー教徒はプラーナと呼んでいる」私と鈴木(大拙)教授が、その場にいないあなたのために特別に料理を用意しましたと言ったら、彼はくすくす笑ってさえぎつた。

 「たとえ魂のかたちであっても、その場にいたという記憶はないがね。
鈴木教授のことはたいへん尊敬しているが、教育者の最高の目標は教え子たちに心を開くことだと思う。

 われわれはあまりにも小さく、宇宙はあまりにも広い。教え子に、人は心の潜在能力の10パーセントぼっちしか使っていないこと、そしてこの無限の空間の一部であり、望むならそれを理解することができると気づかせることこそが、有能な教師の役目なんだ
」  
(ページ103−対話2 宇宙的宗教)

〇宇宙的宗教の意義

 テーブルに身を乗り出して、彼は悲痛な声で話し続けた。「
(宗教)という言葉を聞いたとたん、身震いがする。教会は、いつも権力者に自らを売り渡し、義務の免除と引き換えに、どんな取り決めにも応じてきたんだ。

 宗教的精神が教会を導くのならよかったのだが、実態はその逆だった。聖職者たちは、いつの世も、自分たちの地位や教会の財産が保誉れさえすれば、政治や制度の腐敗に立ち向かうようなことは、ほとんどなかった」

 アインシュタインは、あたかも開いた本でも持っているかのように手のひらを上にして、私の方に手をさしのべた。「
ああ、ヘルマンス博士、世界が求めている新しいモラルによる刺激は、何世紀にもわたって妥協を重ねてきた教会からは、おそらく生まれない。

 ガリレオやケプラーやニュートンといった科学者の系譜からこそ生まれてくるはずだ。

 彼らは失敗や迫害にもめげず、宇宙が統一的存在であることを証明するために生涯を捧げたんだ。そこには擬人化された神は存在する余地がない、と私は思う。

 本物の科学者は、賞賛や誹謗に動ずることなく、人に説教をすることもない。彼は宇宙のベールを取り払い、人々はおのずと、そこに新たな啓示、つまり秩序、調和、そして創造の壮大さを見にくることになるんだ!

 そして宇宙を完全な調和に保つ見事な法則を意識するようになるにつれ、自分自身がいかに小さい存在なのか悟り始める。

 人間の野望や陰謀、利己主義とともに、その存在の小ささを知る。これが宇宙的宗教(コズミック・レリジョン)の芽生えだ。

 同胞意識と人類への奉仕が、その道徳規範となる。もし、そのような道徳的基盤がないとすれば
」。ここで彼は物思いに沈むかのように続けた。

 「
われわれは、望みなきまでに悲惨な運命だな」「ああそうだ、アインシュタイン先生」と、私はポケットから一葉の写真を取り出した。「ヘルミーナ皇后から先生への贈り物です」(ページ111ー対話2 宇宙的宗教)

              教 会
おお教会よ、汝が物語は何と悲しく残酷か。
汝はビラトの水で、その手を洗った。

汝は少年十字軍を祝福した。
汝の黄色の星は、かぎ十字の支配者を殺戮へと駆り立てた。

彼の憎しみに満ちた胸中は「ローマ法王がお手本だ」と言いたげだ。

おお教会よ、おお血なまぐさき場所よ!
汝が塔頂に立てられし十字架では、天国と地獄の現状は変えられない。

愛のカは、悪魔の権力欲ではなく、神に祝福されるのだ。

良心の教会

 アインシュタインは私を見て言った。「
だから、私の最もすばらしい教会は、自分の手でひつそりと設立した良心の教会なんだ」。

 そして、みなのいぶかしげな顔をながめてから、こうつけ加えた。「
没我、慈悲深さ、隣人への奉仕、これらはこの教会が多くの信者を勧誘するかわりに一度は実践する項目だ。

 宇宙的宗教のみが唯一の答だ。そうすれば、貧しい者の人権を犠牲にして権力を支える教会政治はなくなるだろう


、「来世を信じないのですか?」と牧師は開いた。
そうだ。私が信ずるのは宇宙のことだ。合理的だからね。どんな出来事にも、その根底に法がある。

 それに、この世における自分の目的も信じている。自分の良心の言葉である直観は信じるが、天国や地獄についてどうこう言うのは信じない。今この場所、この瞬間に関心があるんだ


 「ああ、魂(ソウル)のことですね。とすれば、死後の生を信じるのですね」「
私が信じているのは」とアインシュタインが言った。「愛し、奉仕する、といった、この世の義務を果たすかぎり、死後のことを心配する必要はないってことだ」