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童話作家 寮美千子さん

産経新聞 「文化欄・・イヨマンテ儀礼」から一部拝借・・・・・イオマンテでは、死を隠さない。人々の輪のなかで子熊に矢を放ち、二本の丸太で首を挟んで息の根を止める。それゆえ、この儀礼は「残酷である」という理由で、ほとんど行われなくなった。しかし、本当に残酷なのは、どちらだろう。ひと切れの肉の背後にある命に思いを馳せることも感謝もなく、飽食し、平気で食べ物を捨てる現代人の方が、よっぽど残酷なのではないか。 

子熊の命を奪った後、アイヌの人々は感謝の気持ちをこめ、熊のカムイを心からもてなす。歌や踊りで楽しんでいただき、たくさんのみやげ物を捧げ、それを神の国に持ち帰っていただくのだ。 アイヌが感謝の祈りを捧げるのは熊ばかりではない。彼らにとっては、万物がカムイ。大地の底から湧いてでてくるほど豊富にいたという兎や鹿をしとめても、必ず祈りの言葉を捧げたという。
さらには、植物にも祈りを捧げる。植物も命ある存在。神の国では人と同じ姿で暮らしていると考えられているのだ。 イオマンテは、食物連鎖の頂点に位置する熊に祈りを捧げることで、万物への祈りと感謝を象徴する儀式なのだろう。


童話作家 寮美千子
 リよう・みちこ 昭和三十年東京生まれ。外務省勤務、コピーライターをへて童話作家に。帯広
の市民団体「十勝場所と環境ラボラトリー」と共同で、アイヌ文化を題材とした絵本『イオマンテ
 めぐるいのちの贈り物】(パロル舎)を出版。