学生が企画、ロシア主催は初
シベリア抑留写真展を見るロシア人 女子学生
ラーゲリの悲劇を超え日露友好願い
【モスクワ=内藤泰朗】 「多くの日本人が命を落としたシベリア抑留とは何か」−。知られざる自国の歴史の一ページを学んで未来に役立てようと、日本を学ぶロシアの学生たちが中心となって企画した「シベリア抑留写真展」が十六日、モスクワで始まった。ロシア側が自国史の暗部であるこの間魔の展示を主催するのは初めて。若者たちは、相互理解を深め、日露関係の発展につなげてほしいと願っている。
写真展は同日、モスクワ中心部にある国立東洋学研究所図書館の閲覧室で始まった。会場の壁には、シベリアの原野や極東の森林に放置されて荒れ果てた日本人墓地を整備し、「友よ安らかに眠れ」と書かれた慰霊碑を前に手を合わせる日本の遺族や友人たちの姿や、元抑留者の画家、故吉田勇さんが描いた強制収容所(ラーゲリ)での厳しい暮らしぶりの絵画を写したものなど、写真四十八点がロシア語の解説付きで展示されている。
その多くは、第二次大戦で対日参戦した旧ソ連が投降した日本軍兵士らを連行し強制労働させたシベリア
抑留に関係する写真だが、百年前の日露戦争で捕虜として日本で死んだロシア人将兵たちの墓の写真もあった。
「ロシアではシベリア抑留という悲劇の存在すら知らない人が多い。一方、日本側がかつて敵だったロシア将兵たちをいかに手厚く葬り、尊敬の念をもって扱っているかもほとんど知られていない。半世紀以上の時を経た記憶を風化させないために、さらに日露の信頼関係が高まることを願ってこの企画を考えた」 研究所の建物内にある東洋大のロシア人女子学生は写真展を主催した理由を、こう説明した。
シベリアに抑留された日本人約六十万人のうち約五万三千人もが死亡したといわれるが、うち約一万三千人の死はいまだに確認されていない。 展示写真は、シベリア抑留など日露間の問題を扱う露民間団体、「相互理解協会」 (アレクセイ・キリチエンコ会長)の協力で集めたという。
研究所内での展示は一週間だけだが、場所を移して継続する方針だ。
インターネット上で写真を閲覧し、シベリア抑留の歴史を知ることができるホームページ(www.rikai.na
rod.ru)も開設。将来は抑留者の子孫など日本の若い世代との交流や意見交換なども考えたいと夢ををふくらませている。
(産経新聞H16.3.18)
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