物言えぬかな国民サイレント・マジョリテイー
すこし
あり
           くにのあとさき  湯浅博         新世界」議員と野蛮人

 代表選さなかの民主党は、ハックスリーの『すばらしい新世界』を彷佛とさせる。無垢な世界で議員たちが楽しく政治を語っていたところへ、1人の野蛮人が登場する。彼には破壊力があり、「不幸を求める権利がある」と豪語する。

 退屈な政治家よりも破壊力のある政治家の方が頼もしく見え、議員たちには次の選挙を勝利に導いてくれそうな気がする。前者は菅直人首相であり、後者は小沢一郎前幹事長を指すようだ。

 国会議員の最大関心事は、いかに失職しないで済むかであり、「1に雇用、2に雇用」の選挙スローガンでさえ、彼ら自身の問題かと疑う。国難に際して、どう指導力を発揮するかは二の次になる。

 "新世界"の政治家たちは
官僚を悪役に仕立て、能力も怪しいのに「政治主導」を豪語する。その危うさは、尖閣諸島の周辺で領海侵犯した中国漁船の処理への決断不足にも表れていた。7日午後1時に海上保安官が中国船に立ち入ったのに、波風を立てたくない仙谷由人官房長官が決断できない。「国内法で処理」との立件方針は同日深夜までずれ込んだ。

 政治主導だというのに、両候補とも領土、領海という国家の基軸にかかわる問題に即時発言しなかった。まして、米海兵隊の沖縄駐留は必要なくなるとの小沢発言は、中国を喜ばすことになるだろう。
防衛専門家は沖縄から米軍が撤退すれば、力の空白に乗じて中国が尖閣諸島に侵攻すると指摘した。

 国際社会に目を向ければ、ハックスリーもぴっくりの"野蛮人"がごろごろしている。
今回の中国漁船とて単なる違法操業かを疑う。米国防総省は、ときに中国海軍の息のかかった海上民兵が乗り込むことがあるとみるからだ。

 民主党代表選に紛れて強行し、尖閣諸島に領有権があるとの既成事実を積み上げる。先の参院選のさなかにも、中国海軍の駆逐艦など2隻が沖縄近くの公海を抜けていった。中国海軍の司令官が-外洋訓練を常態化する」と豪語したのは、昨年4月のことだ。南シナ海の8割を自国の領海だと主張するように、東シナ海でも沖縄のすぐ北側までを、「中国の海」だと暴論をはく。

 どさくさに紛れて強硬策に出るのは毛沢東時代から変わらない。
昭和39年の東京五輪のとき、世界の目が"平和の祭典"に注がれている最中に、中国は初核実験を強行した。この尖閣諸島をめぐっても、対中外交の苦い経験がいくつかある。

 昭和53年に結ばれた日中平和友好条約は、その典型であった。交渉前に、日本で尖閣の帰属を明確にすべきだと議論しただけで、中国漁船の大群が尖閣に押し寄せた。その結果、条文に「尖閣」は挿入せずに間題を先送りした。外交上、「圧力に弱い日本」のイメージが定着した。

 南シナ海でみる中国の島嶼(と一しょ)ぶんどりにも一定のパターンがあった。1992年の領海法で勝手に線を引くと、まず海洋調査を開始し、次に漁船を装った海上民兵が登場する。その後に控えているのが、国家海洋局の武装艦船であり、やがて海軍の艦船が登場する。

 「すばらしい新世界」のわが政権党は、この圧力に耐えうるか。国益が貫けなければ、やがて議員たちの
失職が決まる。(東京特派員)情報源:産経新聞H22(10)9.11