産経抄
後の作家、司馬遼太郎さんが京都の新日本新聞に入社したのは昭和21年のことである。今は跡形もない小さな新聞社だった。同僚に青木幸次郎という対馬出身の背の高い記者がいた。相当に個性的で司馬さんにとって気になる存在だったようだ ▼その青木記者がある日、編集局の真ん中で仁王立ちになり新聞を読みながら叫んだ。「対馬は朝鮮領だと李承晩大統領はいっているよ」 「おれの故郷もあぶないわい」。司馬さんが30年ほど後に「街道をゆく」シリーズの『壱岐・対馬の道』に書いている話である ▼いつごろのことか司馬さんの記憶も定かでなく」どの新聞かも確認できない。李承晩が韓国大統領となる前だったかもしれない。それでも李承晩政権はこの後、日本を頭越しにして米国に「対馬は韓国領だ」と「返還」を求めたこともあり、発言は事実だろう ▼司馬さんはそこから国境の島・対馬を中心に日韓関係史を描くのだが、おもしろいの李承晩発言への反応だ。青木記者は「声明をまったくユーモアでとらえていて、真にはうけていなかった」という。「たれもが対馬十万石の地が朝鮮領であるなどととは思っていなかった」からだ ▼だが今、対馬の現状は「ユーモアだけではすまされないようだ。韓国の国会では「対馬返還決議案」が提出された。本紙が伝えるように島の不動産が韓国資本によって買収され、韓国からの観光客であふれている。合法的に「韓国領」なる不安を持つ人も多い ▼日本の国会にもようやく、対馬を守るための立法化の動きが出てきた。背景には島の経済低迷による人口減もある。韓国化を警戒するのはむろん必要だが、もっと大軍なのは日本人自身がこの「防人の島」に関心を寄せることだ。2008.11.16  

                                                   
対馬が危ない-4 韓国はどう思っているのか 竹島への”報復心理”
 
対馬をめぐる経緯 島西根県議会が2005年3月16日、「竹島の日」条例を制定したことに反発し、韓国慶尚南遣の馬山(マサン)市議会はその2日後、「対馬島は対馬島征伐以後、慶尚遣に隷属し確かに韓国領土となった」として「対馬島(テマド)の日」条例を制定。対馬島征伐とは1419年、朝鮮の将軍が−万7000人の兵士を率い対馬を攻めたことを指す。韓国では竹島問題が取りざたされる度に対馬問題が浮上。今年7月、新学習指導要領解説書をめぐり、韓国の退役軍人らが対馬に乗り込み抗議行動を行った。

 対馬返還要求決議案 7月、日本の学習指導要領解説書に竹島をめぐる日韓の領有権問題が盛り込まれ、韓国の与野党国会議員50人が「日本の対馬も韓国の領土だ」として提出した。韓国領の根拠として

@李朝(李氏朝鮮)時代の韓国の文献に出ている
A対馬の住民の遺伝子が韓国人と一致する
H李承晩・初代大統領が「対馬は苦からわが国に朝毒していたわが国の領土だ」と述べた
C1949年の第−回国会に「対馬返還建議案」が提出された−などを挙げている。

 韓国政府の公式見解 馬山市議会が「対馬島の日」条例を制定した際、渚基文・外交通商相(当時)は「(韓国が)対馬島の領有権を主張する国際法的な根拠はなく、そのような主張を続けると独島(日本名・竹島)をわが領土とする主張の信頼性が損なわれる」との見解を示した。


 【ソウル=黒田勝弘】産経新聞の特集「対馬が危ない!」に関し早速、韓国のラジオ・ニュース番組で電話インタビューを受けた。「意図は何か?」 「ちょっと大げさではないのか?」「対馬は韓国領との主張はどう思うか?」という。「日本にとって安全保障などで重要な国境の対馬が、経済的に苦しい状況にあり、韓国との交流関係で副作用に悩んでいるという実情を読者に知らせるものだ」 「”対馬は韓国領”というのはやり過ぎだ。日本の国民感情を刺激している」と答えておいた。

 通信社の「聯合ニュース」をはじめいくつかの新聞やインターネット・メディアも伝えていた。産経新聞の気に食わない記事を紹介するときに決まって使われる「極右紙」という修飾寄を付けて。
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 韓国の対馬に対する関心の高まりは、日韓の領土紛争になっている竹島(韓国名・独島)問題からくる日本への”報復心理”と、最も近い”海外観光地”として脚光を浴びているということからきている。 このうち対日報復心理は、韓国で竹島に最も近い鬱陵島に行けば分かる。島には郡当局が管理する「独島博物館」というのがあって観光名所になっている。ところが博物館の入り口に「対馬は韓国の領土」と刻まれたでっかい石碑が立っているのだ。 10年ほど前に建てられたというが、その趣旨は「日本が独島に手を出すのならわれわれは対馬もよこせというぞ」という意味だ。

 筆者も韓国での各種インタビューでよくいわれる。「われわれが対馬は韓国領といったらあなた方はどうする?」というのだ。 今から3年前、島根県が「竹島の日」を制定した際、韓国の馬山市議会が対抗して「対馬島の日」を制定したのもそうだ。 なぜ馬山市かというと、韓国側の”主張”は李朝時代の故事にかかわる。韓国(朝鮮)は1419年、海賊の倭寇退治を理由に対馬に侵攻したがこの時、韓国の水軍は馬山から出陣した。そしてこの事件の記録に「対馬はもともとわが国の領土」と書かれているのが、現在の”対馬韓国領論”の根拠になっているというわけだ。

 しかし韓国政府や識者の間では「この主張はまずい」という声が支配的だ。理由は「独島(竹島)の領有権主張までいい加減でデタラメと思われかねない」からだ。 ただ超党派の国会議員による「対馬返還要求決議案」に対しては51%が賛成という世論調査(7月、リアルメーター社)がある。メディアや学校教育、ロコミによる"一方的情報"が広がれば世論が本気になる可能性もある。

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 韓国人の対馬観光は、近年の海外旅行ブーム、日本旅行ブーム、釣りブームの一環でもある。釜山から高速船でわずか−時間半。近くて安くて手軽で”歴史的快感”も楽しめる。 経済発展を背景に活発化している海外投資の一環として、人気の対馬への観光・不動産投資は自然の流れだ。すでに日本各地で韓国資本によるゴルフ場買収も活発だ。これも韓国でのゴルフ・ブームを背景にしている。韓国が豊かになったのだ。

 鎖国時代の江戸時代に、対馬藩は日本唯一の”在外公館”として釜山に出先機関「倭館」を置いていた。今も「対馬釜山事務所」がある。対馬は歴史的に韓国−朝鮮半島との緊密な関係の中で生きてきた。国際化時代に”鎖国”というわけにはいかない。

韓国メディア「商業的問題・・・・区別を」

 対馬への韓国資本進出について韓国メディアはどうとらえているのか。韓国側13社、日本側21社のメディアが参加して23日、都内で開かれた「第45回日韓編集セミナー」で聞いた。 「領土問題と商業的問題は区別すべきではないか」と述べたのは韓国日報の論説委員、黄永植氏。「(問題提起自体が)あまりいい気分がしなかった。商業的な問題だ。東京に外国資本が投資しても同じようにとらえるだろうか。(対馬の) ”韓国化”というのが韓国の影響力が増すという意味なら、これからも影響力は拡大するだろうが、韓国政府は一切、関与していない」と指摘した。

さらに「(日本が)民族感情として問題視するのであれば、国民運動をしてでも日本人にしか土地が買えないようにするしかないのではないか」と語った。昨年、対馬に初めて行って韓国語の看板の多さに驚いたという国際新聞(韓国・釜山)論説委員の宋?錫氏は「『この土地、売ります』と書かれた看板もあった。対馬の人口を上回る韓国人観光客が−年間に訪れていると聞く。しかし、彼らは対馬の経済を支えている。対馬には韓国からゴミが漂流したり、韓国人がゴミを出すとの副作用もあるが、釜山の大学生は年に−度、対馬に清掃に行っている。韓国人は領土を広げるために対馬に行っているわけではない」と述べた。

 出席者からはさらに、「韓国人は土地の値段が上がるから投資したのであって、米国に日本人が不動産投資したのと同じこと」「土地を買って領土を広げられるなら、こんな簡単なことはない」などの発言もあったが、韓国サイドからは「資本進出を安全保障問題に結びつけるのは政治的だ。過剰反応ではないのか」との意見が大半を占めた。 (久保田るり子)