平成20年10月9日産経新聞 麻生首相に申す 桜井よしこ
1面から続く
だが、もっと緊急なのが、米国発の金融危機への対処である。おカネほど、その人物なり、国家なりの性質を、残酷なほど正確に浮き彫りにするものはない。品性卑しい人物や国家が操るおカネは、その性格を反映し、徳を備えた人物や国家の使うおカネは、人のためになる。いま、日本は、日本本来の価値観に立ち戻り、日本ならではのおカネの使い方を示していくのがよい。
従来の日本は、自らの価値観を持ちながらも、その価値観に自信が持てず、国際社会のルール作りや制度設計に加わってこなかった。金融も経済も、米欧諸国の導き出す仕組みをひたすら受け入れてきた。国際化の名の下に、その時々の課題をこなしてきた。 けれど、日本の底力を強調する麻生首相だからこそ、ここで立ち止まってほしい。日本は、他のどの国よりも大量に米国債を買い、米国流の経済と金融を支えてきた。それが正しい道だと信じたからこそ、きまじめに従ってきた。
けれどいまや、眼前に出現したのは、マネーがマネーを生むサイバー経済だ。昨年末時点で、デリバティブの取引高が596兆j、6京772兆円にも上る恐ろしいはど暴力的な市場だ。そのマネー経済が頓挫しかかっているいま、米国流の金融資本主義とは異なるおカネの生かし方を、日本が提案していくべきなのだ。金融は本来、経済の潤滑油であり、経済の成長を支えるものだ。金融を本来の仕組みに引き戻す知恵と力を、実はわが国日本こそが持っていることに気づいてほしい。
日本には米国とは異なり、1500兆円に迫る巨額の個人資産の蓄積がある。どの国にもない、健全な金融資産の塊に加えて、文字どおり世界一の水準を誇る各分野の技術がある。よく働き、人を幸せにすることを誇りに思う価値観も、いまだ失われではいない。
おカネも技術も心もあるのである。これをもって日本の底力と、首相は呼んだのではないのか。その一点に信をおいて、国際社会に日本モデルを打ち立てる好機が、今回の金融危機である。であれば、危機対処のための政策は、新たな日本モデルの制度設計に重なるものでなければならない。それを果敢に世界に発信し、日本の底力をもって挑戦していくことが、日本の道を切り拓くだろう。首相は、これを、党利を越えて日本のために働く姿を見せる好機となせばよいのだ。
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