トキと猫が教えてくれたもの 21年(2009年)4月24日金曜日産経新聞 「新聞に掲載された写真を授業の教材として使わせてもらっています」と、宮城県在住の渡辺裕子さん(57)から撮影したカメラマンあてにお礼の電話をいただいた。お話を聞くと、2月25日付の東京発行朝刊1面に掲載した写真で、昨年、新潟県佐渡市で試験放鳥されたトキが猫に狙われたシーンを3枚の組み写真にしたものだった。1枚目は田んぼで餌を探しているトキを猫が姿勢を低くして狙っているところ、次はにらみ合う猫とトキ、最後は根負けして引きあげる猫という自然界のドラマをとらえていた。 渡辺さんによると、授業では、記事の拡大コピーをつくり、最初の2枚の写真に漫画のような「吹き出し」をつけ、せりふを子供たちに考えさせ、最後の写真で両者の心情についての感想を書かせる。これによって子供たちの考える力を養えるそうだ。トキと猫の組み写真は、さまざまなストーリーを組み立てやすく、活字離れ、新聞知らずの子供たちにも受け入れられ、教材にはうってつけだという。 渡辺さんは25年前に地元テレビ局アナウンサーから一転、仙台市内の中学で家庭科の教師になった。当時校内暴力が吹き荒れていた教室で、何とか生徒の気持ちを引きつけようと、新聞を授業に取り入れてみた。科目に関係する記事を短日探し、授業の冒頭で紹介したところ、生徒たちは自分に身近な記事に反応し、目つきが変わっていったという。 このことをきっかけに、渡辺さんは、新聞を学校の教育現場で活用する運動「NIE(News PaPer in Education=教育に新聞を)」にもかかわるようになった。「教科書は冷凍食品のようなもので味気ないが、生ものを扱う新聞は、今を生きる人が登場し、生き方を示唆してくれる」と、いかに新聞が実生活と近いかを強調する。 トキと猫の写真は、今や学校だけでなく、地域の公民館の催しや企業の社員研修にまで使われているという。取材者の意図しないところで役立っているのはうれしい限りだ。若者の活字離れもあって苦境に立たされている新聞だが、まだまだ捨てたものではないのではと元気づけられる。 「書きっぱなし、撮りっぱなしはもったいない。新聞の賞味期限は1日だけではないことを忘れないで」という渡辺さんの言葉が耳の奥に残っている。(写真報道局長渡辺照明) |