産経新聞 平成27年(2015年)11月29日 日曜日

 
日本国旗盗難や落書き

 第二次大戦の激戦地、北マリアナ諸島・米自治領サイパン島で、日本政府が建立した慰霊碑近くに掲揚された国旗が盗まれるなど、日本の慰霊関連施設への嫌がらせ行為が相次いでいることが28日、分かった。平成24年9月の尖閣諸島(沖縄県石垣市)国有化後、被害が目立ち始めているという。

 中国語で日本を中傷する落書きも確認され、地元当局は警戒を強めている。関係者によると、盗まれた日本国旗は島北部の「中部太平洋戦没者の碑」に掲揚されていたもの。11月16日午前に巡回していたマリアナ政府観光局の職員が発見したという。

 碑の近くにある3本のポールにそれぞれ、日本国旗のほか、米国と北マリアナ諸島連邦の旗が掲げられていたが、いずれも刃物で切られ奪われていた。15日夕時点で異常はなかったことが確認されている。碑は昭和49年に日本政府が建立し、敷地は厚生労働省が管理。平成17年には天皇、皇后両陛下も訪問、供花された。

 ポールは長年敷地内に設置されていたが、傾くなど老朽化し、現地で暮らす松本宇位里じついりさん(60)がマリアナ政府観光局の補助金と自費を投じて修復。10月20日から日本国旗などを掲揚したばかりだった。松本さんは「島で暮らす日本人にとっても慰霊碑は大事な存在で、とても残念だ」と語る。

 近くにある韓国人の慰霊碑にも同様に、韓国、米国の国旗が掲揚されているが、そこには手は付けられておらず、日本国旗だけが意図的に狙われたとみられる。碑をめぐっては、25年3月に碑文の「日本政府」と刻まれた部分に「×」印が付けられる嫌がらせもあった。また、近くの旧日本軍施設の壁には、日本人を豚に例える中国語の蔑称「日本猪」や中国語で「尖閣諸島は中国の領土だ」との落書きが行われたり、碑が壊されたりする被害が相次いでいる。

  中国人客急増「手がつけられず」

 日本の慰霊碑や旧日本軍施設への悪質な嫌がらせ行為が相次ぐ背景には、日本人観光客の足が遠のくなど、監視の目が行き届かなくなっている実情もあるとみられる。地元政府観光局は警戒を強め、在住の日本人らも修復を続けているが、すぐに新たな被害が確認されるなど、いたちごっこの状態が続いている。

 サイパン島は第二次大戦を挟み、100年来にわたって日本と深い関係にある。平成9年ごろまでは多くの日本人観光客が訪れていたが、17年以降、日本航空(JAL)の定期便撤退や日系ホテルの閉鎖などもあり激減した。一方、21年からサイパンは米領で唯一、中国人がビザなしで渡航できるようになったことから、中国人観光客が急増している。

 そうした中、24年9月に尖閣諸島が国有化されるなどして、中国国民の反日感情が高まったことも影響し、島内にある日本の慰霊関係施設への嫌がら基激化しているとみられる。かつて日本人が断崖から「万歳」と叫びながら身を投じたことで知られる、島北部の「バザイクリフ」でも被害は確認されている。遺族や戦友会など建立した二十数墓の慰霊碑が並ぶが、近年、これらの碑文の溝にかみ終えたガムを貼り付ける行為が多発している。

 地元の政府観光局はこれらの施設に警備員を常駐させて監視を強化しているが、大勢の中国人観光客らが連日訪れ、同様の嫌がらせを行うなど手がつけられない状態だという。島では第二次大戦中、日本兵や民間人ら約5万5千人死亡し、計一千超の慰霊碑がある。在島歴35年の安井悦子さんは「慰霊碑は現地の人にも受け入れられており、こうした行為には思想的な悪意を感じる。

 これまで可能な範囲で修復をしてきたが、どんな理由であれ、死者を汚す行為はやめてほしい」と話している(池田祥子)