東大卒の人気タレントから、、浪曲師に転身した春野恵子が3月5日、米ニューヨークで浪曲界初の英語による海外公演を行う。資金をインターネット上の募金「クラウドファンディング(CF)」で募ったところ、目標を上回る金額が集まり、中国、ドイツ公演も決まった。「浪曲を世界に広げたい」という夢が広がる。(飯塚友子)

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    「ケイコ先生」英語で初の海外公演


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「♪ファイブディッシュズ イン ザ ボ〜ックス(5枚の皿を箱の中)」9日、大阪市で行われた浪曲寄席でトリを勤めた春野は、「番町皿屋敷」を披露したが、時折「ここを英語でやると…」と英語の一節も織り交ぜた。

日本語浪曲と同様、曲師(三味線伴奏者)の一風亭初月(はづき)の合いの手が入り、朗々と歌い上げる英語浪花節だ。

浪曲界初の英語浪曲のきっかけは、3年前の京都公演。物語を、三味線伴奏で歌う「節」と、せりふを語る「啖呵」で表現する浪曲は、春野が二人ミュージカル」と公言する豊かな語り芸だ。

公演に感激したドイツ人から海外公演を勧められ、昨年3月、大阪で「番町皿屋敷」を英語で初演。外国人の観客からの反響も大きく、「当てもなく『ニューヨーク公演をする』と言ってしまった」と笑う。

ニューヨークは、テレビで「進ぬ!電波少年」に"ケイコ先生"として出演後、タレント活動に疑問を感じて引きこもりがちだったときに訪れた、思い出の地。

「自分がなければ生きられない街。いっか胸を張って戻ろう」と決意し、帰国後、寄席で浪曲に出合った。

大好きなミュージカルと、時代劇の要素が一体となった世界に魅せられ、頭を丸坊主にして上方浪曲の大御所、二代目春野百合子に押しかけ入門。今年で11年目を迎えるが、この間、一歩も海外には出ていなかった。

「ニューヨークは世界のエンタメの中心地。能や文楽や歌舞伎は海外でも有名ですが、浪曲は今や日本ですら知られていない。世界に浪曲を広めたい」

4歳から2年間の米国在住経験があり、英語は得意。だが目指すのは単なる翻訳ではなく、あくまで英語の浪花節だ。

通常、節回しへと続く唆呵は、最後の言葉を伸ばすなどして強めるが、英語版も米国人と相談しながら語尾を伸ばしやすい単語に入れ替えるなど、工夫を重ねた。

課題は資金調達。スポンサーを探す方法もあったが、あえてCFの手法を取った。そこには行政の文化支援が厳しい中、平成らしいネット経由での民間資金を活路に、成功例をつくりたいという意図がにじむ。

今や自身が理事を務める公益社団法人「浪曲親友協会」への大阪府・市からの助成金はゼロ。国からの助成金も半額に減額された。

しかし昨年末の2ヵ月で目標の300万円を大きく上回る559万円をCFで調達。ニューヨークだけでなく、4
月のアモイ、5月のベルリン公演も決まった。「ニューヨーク公演は自分にとっての凱旋であり、世界に浪曲を広める出発点。CFという選択肢を広める一歩にしたい」。"ケイコ先生"にもう迷いはない。

「浪曲は日本が誇れるエンターテインメント」と話す春野恵子-大阪市の一心寺(沢野貴信撮影)

(はるの・けいこ)東京都出身。東京大卒業後、出版社勤務を経て、平成12年に日本テレビ系「進ぬ!電波少年」の「ケイコ先生」として人気を集める。15年、二代目春野百合子に入門し、18年初舞台。24年、咲くやこの花賞受賞。「クラウドファンデイング」で資金調達