た。中露を軸とする首脳らが顔をそろえた光景は、歴史認識でもロシアと欧米の溝が深まり、「新冷戦」とも称される国際社会の現実を象徴している。「対独戦勝記念日はロシア国民のものであり、外国首脳が来るか否かは関係ない」。露政府高官は、旧ソ連近隣国の「欠席」すら目立った式典について、こう強弁した。



 嫌気さす米欧


「大祖国戦争」と呼ばれる対独戦(1941〜45年)で、旧ソ連は2700万人ともされる犠牲者を出した。ロシア人の多くが親族に犠牲者を持ち、戦勝記念日が非常に重要な祝日であることは疑いない。その式典の光景が10年前と一変した。プーチン政権が「戦勝国」の立場を露骨に強調し、米欧や近隣諸国に嫌気がさしているためだ。

「ソ連はナチス・ドイツを打倒した戦勝大国だ」「ソ連は欧州をファシズムから解放した」。プーチン政権はこう声高に叫ぶことで、国連安全保障理事会の常任理事国に象徴される「大国路線」のよりどころを死守しようと躍起になっている。

しかし、第二次大戦から独ソ戦での犠牲や勝利だけを切り抜いてたたえる歴史観を、多くの国は受け入れることができない。独ソが39年、欧州での勢力圏分割を密約し、ドイツがポーランドに侵攻して大戦に道を開いた事実に、ロシアが目を閉ざしているからだ。

 離反への焦


ロシアは、東西冷戦構造の端緒となったヤルタ協定(45年)を「長期の平和がもたらされた」などと評価する。だが、独ソの双方に蹂躙(じゅうりん)された東欧やバルト諸国にとっては、戦後のソ連支配は「新たな占領」にほかならなかった。

プーチン政権が「戦勝」や「欧州の解放者」といった歴史認識を強調する背景には、冷戦に「敗北」し、旧東側諸国が続々と欧州連合(EU)や北大西洋条約機構(NATO)へと抜け出したことへの焦りがある。

ロシアは、ソ連を否定的にとらえる東欧・バルト諸国を「歴史の書き換えを図っている」と罵倒する。昨年、親欧米政権が発足した隣国のウクライナには「ファシスト」のレッテルを貼って軍事介入した。欧州諸国は8日、各地で終戦70年の行事を行った。

ロシアが9日を記念日としているのは、ドイツ降伏の報が日付をまたいで旧ソ連に伝わった事情による。犠牲者の追悼や和解を重んじる欧州に対し、大規模な軍事パレードを行うロシアは異彩を放つ。米欧とロシアの対立は記念日の違いにとどまらぬ深さを帯びつつある。(モスクワ遠藤良介)