情報源;実践倫理宏正会・会報倫風10月号
《子育ての知恵》 おばあちゃんたちの魔法の言葉 子育てにも"流行"がある。今でこそ、赤ちゃんと寄り添う育児法が勧められているが、かつては、抱きグセがつくからと赤ちゃんをむやみに抱かないよう指導されたり、母乳では栄養不足だからとミルクが推奨されたこともあった。 子を産み、育てるという人問の営みは太古の昔から続いてきたこと。新米の母親にとって心強いのは、一時の流行より、先輩たちの実体験からくる肉声のアドバイスだ。 最近は核家族化が進み、親戚付き合いも近所付き合いも減った中で、育児ノイローゼになる母親も多い。「無我夢中で子育てしてきましたが、たまたまご近所に親切なおばあちゃんたちがいて、日頃からいろいろ教わったりしましたから、今思えばずいぶん楽をさせてもらっていたのかも」 そう声を弾ませるのは、エッセイストの城ノ内まつ子さん。まつ子さんは、十二歳と九歳の二児の母。十年前に北関東の田舎に移住し、築百五十年以上の茅葺き屋根の家で半自給自足生活を送っている。米作りは機械を使わず昔ながらの手法で行ない、日本古来の和綿も育てている。 まつ子さんはサラリーマン家庭に育った。父の転勤に伴い、いろいろな土地での生活を体験したが、両親は行く先々で小さな土地を借りて農作業をし、子どもたちに"土から生きる糧を生み出す楽しみ"を教えてくれた。 その経験は、現在の生活に結び付いている。教職を経てスポーツ関係のライターに。結婚後も、子育てをしながら仕事を続けた。結婚当初に暮らした神奈川県伊勢原市では、畑を借りて野菜作りをしたり、手もみでお茶を作ったりした。 「夫婦ともに"住めば都体質"で、順応は早いほうかもしれませんね。畑作だけでなく、野菜のおいしい食べ方や乳幼児期の子育てについて、近所のおぱあちゃん方に『教えて1』とお願いするまでもなく、ずいぶんアドバイスをいただきました。 二番目の子は手のかかる男の子だったんですが、おかげで子育てのスランプから何度も脱出できました」 二人の幼な子の育児でてんてこまいの時、近所のおばあちゃんから、「猫払うより皿を引け」という昔から伝わる子育ての言葉を聞き、心が軽くなったという。「ダメ1」と言って叱るより、いたずらをしたりしないような環境を整えるほうがいいという意味だ。 「時が熟すのを待ってやるのが親の仕事」「子どもは神様からの預かりもん」「しつけはしつけ糸」。こうした言葉は、子育て中の母親にとって至言・金言だ。近所のおばあちゃんの存在あればこその、楽しい育児時間だった。 「ものごとの本質」と「生きる知恵」 現在の家にやって来たのは、長女が三歳、長男が一歳前の時。子どもたちには、成長につれて米をとぐ、野菜を採る、風呂を焚くなどの手伝いをさせてきた。近所のおじいちゃん、おばあちゃんたちにも、子どもたちは可愛がられているという。 「悪いことをしたら叱ってくださったり、皆さん、目をかけてくださいます。自分の家の嫁の子育てには口出ししにくいけど、孫世代にあたる他人の私だったから喜んで教えてくださったのでしょう」子どもたちにとって、幼児期の心を育むその"よりどころ〃となりうるものは、「人情」「自然」だと、まつ子さんは実感している。 「いろいろな人とかかわりながら親が親として成長していけば、自然と子どもの心を育んでやることができます。ついこの前までは、そんなことは当たり前でした。でも今は教育が偏重されていますから、ことさら意識して育てないと『心の成長』という一番大切なことがすっぽり見落とされてしまいます。 『まずは心、次に体、最後に頭』という言葉があります。心という土台が何より大切だということ。子育てに悩んだ時は、臆せず、身近な子育ての先輩の話に耳を傾けてはいかがでしょう」 まつ子さんの家にはテレビがない。携帯電話もない。親子四人のにぎやかに会話が飛び交う今の暮らしに、両方とも必要ないと考えている。子どもたちの要望にこたえ、ようやく最近になってDVDやビデオを見るようになった。 帽子やワンピースなどを自作するまつ子さんだが、裂き織りや機織りも手がける。 「自分の着るものは自分で作っていた、母の代までの技術を身につけておきたいと思ったからです。機織りをはじめとして、いろいろなものを手作りするのは面倒ではなく、楽しいことなんです。子どもたちには、『ものごとの本質』を知ってもらいたい。人の手を通してものが出来上がること、自然の恵みのおかげで生かされているのだということを実感してほしいと思います。 自分の元へ届けられた食べものは、感謝と礼節をもって食べる習慣と、『強く生きる知恵』をつけてほしい。生きていれば山あり谷ありですから、どんな状況でもまずは受け止め、あるものを大切にして充足して生きる心を育みたい。このことは、私自身、祖父母や両親から身をもって教えられたことです」 時代は変われど、生きていくための知恵は基本的に変化しないものだ。人生の先輩が代々伝えてきた知恵に、もっと耳を傾ける必要がありそうだ。 |