日本の文化文明を知る大切さ 明治維新140周年記念シンポジューム「君に伝えたい、日本。」 「君に伝えたい、日本。」をテーマに本紙に寄稿された執筆者の方々をパネリストに招き、先月25日(土)明治神宮会館で、明治維新140年記念シソポジウム「君に伝えたい、日本。」(主催・明治神宮国際神道文化研究所、産経新聞社。後援・雑誌「正論」、フジサンケイビジネスアイ)が開催された。その主な内容をご紹介します。 櫻井 「君に伝えたい、日本。」ということで次世代に伝えたい日本とは何か。未来につながる話にできれぱと考えています。日下さん、どうぞ。 日下 自衛隊派遣後、サマワから宗教指導者や行政の長、医師や看護婦らが来日し、わが家で食事をしたとき「自衛隊中央病院を見学し驚きました。病院はぽろなのに大切に使いながら、イラクにはピカピカの病院を四つも寄付してくれました」というのです。隊員自らが機械を手入れし看護婦さんも医者もゴミを自分で拾う。「これが日本人かと感激した」という。私も大変感激しました。 ヴルピッタ 日本人古来の暮らしの豊かさが崩壊しつつある印象を持つが外国に比べるとまだ健全です。仕事に精進する。「生命を受ければ人として社会に報いる義務がある」と考える美徳は昔から日本人の信仰です。しかし家庭教育の崩壊が心配です。親の多くは「子供の自殺は学校が正しく対処しなかった」であって「家庭でいかに対話がなかったか」ではありません。 茂木 私から見て日本的可能性の中心にあるのは生命哲学です。本居宣長が「もののあはれ」といいました。日本人はシステムをオープンな形で捉え、規則的なものと偶然のものとをうまく織り交ぜる。「偶有性」を培い発揮していく。「もののあはれ」は科学的に言えば「偶有性」に通じ、日本固有の感性であり思想です。日本人の生命の根幹に対する洞察は普遍的価値を持っています。間題はそのことが世界的によく知られていない。大変な損失ですが、幕末当時、加賀百万石の住民たちは「江戸に徳川某がいようが関係ない。前田の殿様が一番だ」と考えていた。日本人はこの気概、内なる基準や倫理観を持つべきです。 福田 明治天皇は崩御されて京都の伏見御陵に帰られるが、渋沢栄一らが発案し明治神宮を造る。全国から届けられた樹木を全部植えるのは難しく、議論になったとき、青年団を率い造園を担当した内務官僚の吉田茂は全ての植樹を勇気をもって決断する。私が申し上げたいことは吉田茂のような人はたくさんいたという事実です。日本人の秩序感覚は連綿と続いているように見えるが、実は一人一人の自己を忘れた努力の積み重ねで成り立っている。その自覚が大事です。 櫻井 ありがとうございました。茂木さんの指摘について考えようと思います。 日下 京都大学の山中伸弥教授が万能細胞を開発しました。受精卵の細胞は全能性があるので成長とともに分化して骨や臓器などができ人間になる。そういうヒトの受精卵を使うと倫理上の間題が発生するので、山中さんは分化した皮膚細胞を初期化させて全能ではなくて万能の細胞を開発する画期的仕事をされた。初期化の考えは「神の御手の秩序は進歩のみ」というキリスト教圏の思いこみからは生まれません。そこで日本人から根本的な発想転換が生まれるのです。 ヴルピッタ、日露戦争で武士道が注目されました。福田先生が明治43年の潜水艇沈没事故での佐久間勉艇長の話を書かれた。引き揚げられた潜水艇の中で皆が取り乱すことなく自分の役目を最後まで果たしながら持ち場で亡くなっていた。これは世界の驚きでしたが、大事なことは彼らが英雄になりたいと思ったわけでも何でもないところが日本人の根本的な美しさです。本質を追求して立派な日本人として当たり前に振る舞う。それがいい。世界のモデルです。 櫻井 武士道、自らを厳しく律し、ひけらかさない素晴らしい身の処し方が国際社会では誤解されもしました。満州事変後、国際社会に波紋を広げ「日本は野蛮で拡張論者で凶悪化している」というイメージが.広がり追いつめられ、列強は中国になびいた。私たちが是とする価値観を今どう発信し国際社会に受けいれてもらうかを論じたい。 福田 明治時代は伊藤博文のような人たちが、お金を潤沢にもらい人的関係を外国とつくる環境が整っていた。個人的関係も密接で外交も順調だったが、昭和になると外交官はサラリーマン化した。外国から賓客が来ても自宅に招き一夏過ごすことはできなくなる。蒋介石の軍事顧間をした米国のスティルウェル将軍の日記に興味深い記述があり「中国の外交官は大富豪ばかりで家に泊めて人的関係をつくる」と。人的な関係が築かれた結果、日本は対米外交で中国に敗北しました。人的関係の構築はいまだに中国の方が勝っていると思います。 櫻井 柔道が五輪で変容したように、私たちが良いと思い世界に示しても、形が変わるかもしれない。 茂木 茶道もそうです。私は武者小路千家の官休庵に行き、千宗屋さんの席に招かれるまで分からなかった千利休がやろうとしたことが、初めて分かった。驚愕しまた。要するに広がっているものを見てもその本質、クオリア(現象的意識、感覚質)は分からない。今日のシンポジウムで一貫した問題は日本人自身が日本人の価値を知らず、われわれが本物を知らない。それが君に伝えたい日本です。メディアの責任も重いと思います。 櫻井 だからこそ日本の良さを知る日本人になる、日本の文化文明を知ることが大切で自信につながります。最後に私たちにできることを一言ずつお伺いしたいと思います。 日下 一番簡単なことは下らない新聞は取るのはやめる(笑)。月刊総合雑誌を読む。誰でもやれることは、結婚する人にお祝いをあげるときは子供を2人以上つくるよう励ます。これは誰でもできます。 ヴルピッタ 自信を取り戻すことは大事です。日本を見詰めることは自分を見詰めることでもある。そして日本の暮らしを生きる。誰でもできることを一つあげれぱ、週2回くらいは家族で食事を取るなんていいでしょう。 茂木 人間は楽観的でずうずうしくないと脳は働かないのです。僕が心配しているのは日本人が将来に対して悲観的過ぎることです。極端にいえば前頭葉楽観回路が働かないと鬱になりますから根拠のない自信を持て1と、(笑)。 福田 戦後日本は水平の価値ばかりが重視され、今生きている人間の幸せ、満足が第一になりがちだが、前世代や次世代という垂直の関係を考えることが大事です。そういう了見が根付くと少し良くなります。 櫻井 柳田国男さんは「日本は生者だけでなく、死者のためのものでもある。亡くなっても霊や魂は生者を見守っている」といわれた。それを忘れなければ、日本をどう保ち子供たちに何を教えたらいいのか見えてくる。この国が限りなくいとおしく大切に思える。そうなったときに 祖国を構成する一人一人の日本人が勇気を持ち、歴史に興味と誇りを持ち、楽観的になり暮していけると思います。今日は本当にありがとうございました。(拍手) |