若者に語る美しい国・日本
永世棋聖・日本将棋連盟会長 米長邦雄
名勝負師が指し示す、日本会議前進のために打つべき次のl手とは?
★広報戦略を持て!
先日、靖国神社崇敬奉賛会の大阪の青年部に呼ばれて講演しました。どうしたら組織が広がっていくか、ということについて、次のような話をしました。
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第一に大事なことは信念を変えないということです。「お前さん、ちょっと右っぽいな」と言われてぐらぐらするようではいけない。信条を貫くこと、これは皆さん、よくなされているだろうと思います。しかし、もうひとつ大事なことを忘れていませんか。それは今の時代風潮の中で、どういうふうに広報をしていったらいいかということです。
「憲法九条を守らないといけない」「日本は戦争で悪いことをして、反省していない」という人たちがいる中で、しゃかりきになって、そういう考えは間違っていると言っても、「軍国主義」「国粋主義」とレッテルを貼られてきて苦戦してきたわけです。戦後の主要メディアは、平和を愛好する大多数の国民がいて、そのごく一部に右翼がいる、というような捉え方をしようとして六十年間きた。そういうところへ、いきなり、大東亜戦争がどうのこうの、東京裁判がどうのこうの、と言っても果たしてどうか。つまり広報活動が下手だった。しかし勝負だから勝たなければいけない。
では、どうしたらいいかというと、信念、信条はしっかり内に秘めながらも敢えてそれを表には出さないということです。その代わり、何を伝えていくか。それは次の三点です。まず日本が過去どれだけ素晴らしい国だったか、美しい国だったか、ということを伝えていくこと。次に、今の日本は果たして美しいのかどうか、考えてもらうこと。そして、将来どうしたらいいか、考えてもらうことです。日本がどれだけ美しい国だったかを子や孫に伝えるには、日本の美しい歴史、偉人を丹念に語り継いでいくことだと思います。 そこで、例えば次のように語りかけてはどうか。
君たちのお父さん、おじいさん、あるいは曾おじいさんは、戦争を仕掛けて残虐なことをしてきた悪人だったと教えられてきて、日本という国に自信も誇りも持てないようになっているかもしれない。でも、日本を嫌いな国というのは、世界中で三ケ国しかないんだよ。大体、隣国同士というのは仲が悪いものなんだ。例えばインドネシアとオーストラリア、トルコとギリシャとか長年犬猿の仲だよ。だから日本の隣国三国が日本嫌いっていうのは別に気にする必要はないんだ。
一方、日本大好きっていう国はたくさんある。モンゴルや台湾、東南アジア、中東などのアジア諸国や北欧や東欧などたくさんあるよ。例えばポーランドは日本文化研究所があるくらい親日的なんだ。 北欧のフィンランドで一番尊敬されている日本人は東郷平八郎だよ。知ってるかい? 東郷乎八郎にあやかって、「トーゴー」という名前の人もいるし、「トーゴー通り」があり、東郷ビールという地ビールまである。ロシアの圧迫を受けていたフィンランドの人たちは、ロシアのバルチック艦隊を日本海
軍が破ったことに歓喜した。その連合艦隊司令長官が東郷乎八郎だったんだ。
じゃあ、東洋の小国日本が大国ロシアになぜ勝つことができたのか。理由はいろいろあるけど、教育水準が高かったというのもそのひとつだね。明治の新政府の第一の課題は、欧米列強の植民地にならないことだった。そこで、まず何をやったかというと、明治五年に学制を発布して、全国に学校を作った。地元の地主が土地を提供したりするなどして、全国に学校が建てられた。そして読み書きそろばんを子供たちに教えた。この教育水準の高さが日本という国を強くした基となったんだよ。
もし日露戦争で日本が負けていたら、日本はモンゴルやチベットみたいになっていたかもしれない。モンゴル人のほとんどは仏教徒で、ダライ・ラマ法王を尊敬している。つまりチベット仏教徒なんだね。
そうそう、チベットで騒ぎが起きましたが、チベットの最高指導者ダライ・ラマ法王と会わない国家指導者は日本の首相だけだと知っていましたか? アメリカでは大統領が最高勲章をダライ・ラマ法王に授与したり、ニューヨークのセントラルパークで十万人のチベット独立支援の集会が開かれて、ハリウッドの俳優リチヤード・ギアさんが司会したりしたこともありました。一方、わが国では、二年前に広島で平和の祈りを捧げるためにダライ・ラマ法王を含め三人のノーベル平和賞受賞者がやってきたのに、広島県知事も広島市長も出迎えはおろか接触さえしようとしなかった。何を怖気づいているのかねえ。
あるいは毒入りギョーザ事件では、中国は日本が入れたなんて言ってるけど、本当かねえ・・・・と、まあ、この辺までで話はやめとくんですよ。あとは、本人たちに考えさせるようにすればいい。
さて、こうして考えてみると、日本という国もまんざらじやないし、むしろ隣国のほうがどこかおかしいところがあるんじゃないかなあ。 日本は実はとっても素晴らしい国で、多くの偉人を輩出してるんだ。
例えば、野口英世。彼はアフリカのガーナに赴任して黄熱病に斃れた。ロックフエラー財団で抜群の成績だった英世は、そのままアメリカで研究にいそしむこともできたのに、そうはしなかった。ガーナの医師団に欠員が出て、その後継の募集があったときに、真っ先に手を挙げた。「義に生きる」ということが日本の素晴らしい特質であって、それを実行した英世は今でもガーナの人々から尊敬されているんだよ。
それから、菅原道真。天神様として全国各地の天満宮に祭られているから知っているよね? 菅原道真なぜ学問の神様か、知っていますか。学問のできる人はほかにもたくさんいた。でも菅原道真が偉かったのは、遣唐使をやめて日本の文化的独立を宣言したことなんだ。当時日本は大国だった隋や唐に学ぽうと遣隋使、遣唐使を派遣していた。それは命懸けの大事業で資金も莫大にかかっていた。命賭けというのは逆に日本を目指して渡航を試みること六度、失明した鑑真和上のことを思い浮かべれば分かるでしょう。さて、遣唐使の団長(遣唐大使)に任ぜられた菅原道真は、こう言った、「日本の文化水準はすでに大陸と対等でございます。もはや大陸に渡っても学ぶことはありません。すべて日本にあります」と。大陸に学ばなくとも、私が教えます、と言ったわけです。
中国と対等だと言ったのは、外交では聖徳太子が最初で、文化文明的側面では菅原道真が最初だった。だから学問の神様になったんだ。
聖徳太子は「十七条の憲法」で「和を以て貴しと為す」と言われた。これは世界を救う思想です。仏教伝来のときに、これを排除せずにたくみに取り入れ、神道と生存させました。こういう事跡を見れば、キリスト教やイスラム教など異教徒同士で戦っているところの人々が、本当に心の平和を得ようと思ったら、日本に学ぶしかないと思いますね。
昭和18年、山梨県生まれ。48年、棋聖戦で初タイトルを獲得後、数々のタイトルを手中にする。60年、永世棋聖、平成5年、史上最年長の名人となる。15年、史上4人目の1100勝達成。同年末現役を引退。現在は日本将棋連盟会長として将棋の普及に力を注いでいる。講演・執筆活動で独自の勝負観・人生観を展開、幅広い層から支持されている。平成12年より8年間にわたり東京都教育委員を務める。著書に『人間における勝負の研究』『不運の進め』『六十歳以後』など多数。 |
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