オピニオン 話の肖像画 出る杭になれ!(上)    作家 三浦朱門

日本叩きは嫉妬の裏返し

「日本人は自信と誇りを持って『出るくい杭』になれ」とおっしゃる。このほど出版した『出る杭日本の宿命』(育鵬社)。17世紀の江戸と欧州との対比にさかのぼって日本の特性を明かし、混迷するニッポンに活を入れる。

⇒すごいタイトルですね

三浦 日本は先の大戦で人類初の原爆を落とされ、莫大な償いも背負わされました。しかもいまなお北方四島など領土間題は未解決で、中国や朝鮮半島からたたかれています。しかし戦後、焦土と無一文の中から立ち上がった日本は、経済大国になり、学問の世界でも成果を挙げてきました。昨年は一度に4人(米国籍を含む)もノーベル賞を受賞しましたがこんな日本は、中国や朝鮮半島から見れば目障りな存在なのでしょう。大戦時の恨みに嫉妬や羨ぽう望が加わり、日本が衰退しない限り、ジャパンバッシングはなくならない。「だったら出る杭になるしかない」とね。

⇒開き直り?

三浦 そうかもしれません。でも日本は無条件降伏したといっても"去勢された"わけではない。冷静な反省、歴史観は必要ですが、卑屈な負い目やトラウマは相手の思うツボです。最近、教育現場で、義務教育を理由に学費や給食費を払わない"モンスター・ペアレンツ"が問題になっていますが、国家も同じようなもの。自己中心的で確信犯。話し合っても無駄な国が多い。「相手を傷つけるようなことは言ってはいけない」などと、どこかの能天気な総理のような対応では、いつまでたっても問題は解決できません。外交は表も裏もある手袋と同じで、武器を使わない戦争みたいなものなんです。

⇒日本は 外交下手

三浦 日本は欧米から遠く離れ、アジアとも海を挟んで対峙する島国だけに、東西両文明とは異質で独自の文明をはぐくんできました。ところがこの特殊性ゆえに欧米やアジアから異端視され、先の大戦では孤立し、失敗もしました。しかしそこには捕鯨問題に象徴されるように、欧米人の日本に対する偏見があります。アメリカは先の大戦で、自国に住む敵国のドイツやイタリア系の移民には行わなかった強制収容を日系人には実施しました。原爆にしてもドイツやイタリアだったら落とさなかったでしょう。

⇒やはり差別が

三浦 
ありますよ。しかし、中国や朝鮮半島からの日本たたきは、偏見や差別というより嫉妬の裏返し。しかもその根は深く、19世紀の明治時代にまでさかのぼります。明治維新を経て、それまでの中国中心の東洋文明から脱亜入欧を目指していたころからです。「世界の中心は自分」という中華思想の中国やその文明圏の朝鮮半島は、日本を無知でできの悪い生徒にしか見ていなかったですからね。

⇒司馬遼太郎もおもしろい指摘をしています

三浦
 彼は「中国文明の優等生は朝鮮半島とベトナムで、日本は劣等生だった」といっていますね。ところがその劣等生に彼らは侵略された。しかも当時、アジアで独立国といえるのは欧米人のつくった国以外では日本と、タイぐらいですから、おもしろいハズがないでしょう。だからいつまでたっても日本は目の上のコブなんです。

⇒仕方ないですよね

三浦
 だから宿命なんです。日本が近代化を目指し、アジア的文明からテークオフ(離陸)しようとしたとき、彼らは中華文明にどっぷり漬かったまま近代化に関心を向けず、しかもヨーロッパ列強の植民地政策にも危機感を持たなかった。「中華人民共和国」や「朝鮮民主主義、人民共和国」の共和国や民主主義、人民など彼らが使う近代用語にしてもその大半は、欧州語から翻訳した「日本製漢語」。彼らは、日本抜きに西欧を理解し、近代化することはできなかったというわけですよ。だがそれを認めたくない。元韓国大統領の金大中氏はある席で「中国はしばしばわが国を侵略したが、文明を与えてくれた。だが日本は何を残してくれましたか」と発言しました。その発言に表れているように、朝鮮半島は三十数年間でも、(中国文明の劣等生である)日本の植民地だったことが許せないんです。情報源:産経新聞H21.6.2

話の肖像画 出る杭になれ(中)

⇒「日本の近代化を17世紀の江戸時代にまで拡大した日本論は珍しい

三浦
 明治維新はあくまで結果論。日本もヨーロッパも近代化へ向けた助走は17世紀から始まっています。江戸幕府3代将軍の徳川家光の「自分は生まれながらにして将軍」やフランス・ルイ14世の「朕は国家なり」の宣言に代表されるように、日本では地方武士、欧州なら地方貴族の力が弱まり、中央集権国家の体制が整った時代。それを「近松門左衛門とシェークスピア」「井原西鶴とモーパッサン」「鎌倉仏教と宗教改革」と演劇や文学、宗教などさまざまな分野から比較検討しました。

⇒違いもある

三浦
 決定的なのはヨーロッパは国土が地続きのため、隣国の状況次第で常に侵略したりされたりの繰り返しですが、日本は島国のため、侵略されることはほとんどなかった。しかも出島を通して交流したのが植民地主義のイギリスではなく、貿易主義のオランダだったことも幸いし、天下太平、家族的な同族意識が醸成された点ですね。歴史学者の竹内理三氏は「純粋培養のような形で社会の根本的変革を行ったことは、世界史上にもその類をみない」といっていますが、全く同感です。

⇒中国文明の影響は

三浦
 ありますよ。日本人は強い好奇心と寛容性か.らさまざまな要因を先取、吸収します。ところが日本人はやがてそれを岨噛し、改良を加えて新しいものを生み出してしまう。文字にしても中国からの漢字を吸収して片仮名を生み出し、漢字、平仮名、片仮名を使い分ける。宗教も、神社に参拝して教会で結婚、死んだらお寺と、自然崇拝や祖先信仰を背景に、八百万の神と外来の仏教とキリスト教を共存させています。食事も和、洋、中と…。'
外国に対する警戒心の欠如や外交下手のマイナス要因にもつながりますが、これほど柔軟で自由、かつ寛大な国民はヨーロッパはもちろん、どこの国にもありません。(押田雅治)

作家
みうらしゆもん三浦朱門(83)
話の肖像画,:出る杭になれ。(下) 自国に自信と誇り持とう

⇒著書ではスペインやポルトガルを「海賊」「山賊」と

三浦
 科学の発達で父方の先祖と母方の先祖が分かるようになりましたね。南米のある国では、国民の大半の父方の先祖はヨーロッパ人で、母方の先祖は現地人だったそうです。彼らは世界各地の金銀を目指して海外を侵略し、その過程で現地の男を殺して女を奪い、子供を産ませていたのです。そんな彼らに遅れて海外進出したイギリスやオランダも同じようなもの。ロンドンの大英博物館にある世界の宝物を見れば、イギリスもかつては海賊の国だったことが分かります。

⇒日本とは相当状況が違う

三浦
 日本の戦争の大半は国内で、しかもその大半は武.士同士の争い。本来、戦争は勝った者が負けた者を徹底的に処分するか追放しますが、日本なんか海外に比べると緩やかなものです。戊辰戦争のときも薩長の政府は敗れた幕府軍の幹部を、少ないとはいっても新政府の正規軍などに採用して昇進させる一面もありましたから。世界の革命から見れば、一般人を巻き込まなかった明治維新は無血革命みたいなものです。日本の歴史は、不思議なくらい平和なものですよ。

⇒だから「日本人は水と安全はタダと思っている」

三浦 つい最近まで地方では玄関に鍵なんか掛けなかった。商品を預けて1年後、使用した薬の代金回収と補充で日本中の顧客を戸別訪問する「富山の薬売り」なんか海外では考えられない。都内だって自動販売機が壊されることなどほとんどないでしょう。日本ほど信頼関係が確立している国はほかにないと思いますね。しかも木造建築や日本庭園、厠・ちょうず、無農薬などの文化を見ても日本人ほど自然を愛し、清潔で安全な暮らしを求め、物を大事にする民族は珍しい。日本がいま、エコロジーで、世界の最先端を走っているというのも、何か象徴的だと思いますね。日本はその柔軟性ゆえに長い歴史の中で弁証法的に発展し、世界からは異質な国に見えるのかもしれません。しかしダーウィンの進化論ではないですが、日本ほど環境にうまく対応してきた国はない。自信と誇りを持って「出る杭」・になってもらいたいのです。、(押田雅治)


三浦朱門
大正15年(1926)年一月生まれ。83歳。旧制高知高、東京大文卒。昭和42年、『箱庭』で第14回新潮文学賞受賞。60年、文化庁長官に就任。平成11年「正論大賞」受賞。文化功労者、著書に『五十歳からの人生力』『不老の精神』など多数。現在、日本芸術院長。妻は作家の曽野綾子。