やばいぞ日本 第一部 見えない敵
モノいわず静かに静かに
2005年2月23日、高野紀元駐韓日本大使=写真=がソウル外信記者クラブの昼食会で、竹島(韓国名・独島)問題に関連した質問に答え、「竹島は歴史的にも国際法的にも日本の固有の領土というのが日本の考えである」と述べ、大騒ぎになったことは記憶に新しい。
当時、竹島が所属する島根県の県議会で「竹島の日」条例制定の動きがあり、この話が韓国に伝わって官民挙げて「日本ケシカラン」の反日ムードが高まりつつあった。
高野大使は問われるままに従来の日本の公式の立場を説明した。そして、「しかし、この間題では日韓両国の立場が対立しているため、問題が両国関係に悪影響を及ぼさないようお互い冷静に対処すべきだ」と付け加えた。日本大使としては外交的に配慮の行き届いた適切な発言だった。
したがって、この発言はニュースにはならない。ソウル外信クラブを構成する外国メディアのはとんどは当然、聞き流したが、韓国のメディアが飛びついた。「日本大使がソウルのど真ん中で妄言」と非難し、反日感情を煽った。高野大使の写真が街頭で火あぶりにされ、テロのウワサも流れた。以後、大使公用車は「日の丸」の国旗をはずして走行し、大使は各種行事への出席中止など外出を控える事態となった。
韓国で繰り返されてきた日本外交”反日受難”の風景である。この時、高野大使の発言について韓国外交当局者から「外交官としては洗練されない発言だった。あそこまで具体的に述べる必要はなかったのではないか。日本の方でもそういう反省が出ているようだが」という話を聞いた。
竹島・独島問題について韓国の一部には「韓国が半世紀以上にわたって実効支配しているのだから騒がない方が得策」という考えがある。したがって高野にそいう批判が出てもおかしくはない。 しかし日本の方でも高野発言に批判があるとは?
在韓日本大使館筋によるとそれは事実だった。「韓国では反日感情を刺激するような発言は慎むべきだ。質問に対する大使め答えも『従来の日本政府の立場に変わりありません』といった、抽象的な言及で済ませるべきだったとの声が当方でも出ている」というのだった。
あれ以来、大使館では大使以下、竹島発言はタブーになってしまった。”かん口令”に近い。韓国であれだけ話題になったのなら、これを機に日本の主張を積極的にPRすればいいのに、逆に萎縮してしまった。
ある大使館幹部は「日本大使の発言はできるだけニュースにならないようわれわれは日夜努力している」と苦笑していた。 日本の対韓外交は相変わらず「モノもいわず静かに静かに」というわけだ。 (黒田勝弘)
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