危うい 「友愛」外交−1 反米3点セットを警告(情報源:産経新聞H21.6.19) 「民主党が掲げる政策を一度にぶつけたら、米議会や政府は反米と見なすかもしれない。皆さんは注意されたほうがいい」一静かな室内に、「反米」という一言葉が非常ベルのように響きわたった。昨年12月19日朝、東京都心の帝国ホテルの一室で開かれた民主党幹部と米知日派の国防・安全保樟専門家の懇談でのことだ。民主党側の出席者は、鳩山由紀夫幹事長(当時、以下同)、菅直人代表代行に岡田克也、前原誠司両副代表を加えた4人。米側は民主党系のジョセフ・ナイ元国防次官補、ジョン・ハムレ米戦略国際間題研究所長(元国防副長官)の大物2人に、ブッシュ前共和党政権で対日政策を担当したマイケル・グリーン前国家安全保障会議アジア上級部長、ジム.ケリー元国務次冒補も加わった。 見えない将来像 鳩山、菅らの顔を見すえるように、「反米警告」の火を切ったナイは、イエローカードの代わりに3つの具体的問題を挙げた。 @海上自衛隊のインド洋給油支援活動の即時停止 A日米地位協定の見直し B沖縄海兵隊グアム移転と普天間飛行場移設を柱とする在日米軍再編計画の白紙撤回し。いずれも、民主党が最新政策集「政策INDEX2008」などを通じて政権公約に掲げてきたものだ。「反米と見なされないためには日米協力の全体像(トータル.パッケージ)を描いた上で個別の問題を論じたほうがよい」。出席者によると、ナイはそう強調した。 口調は穏やかでも、反米警告に込められた疑問は明白だった。それは民主党政権になった場合の日米同盟の将来像がさっぱり見えないということだ。菅らは「民主党政権になっても日本の外交安保政策の基軸は、日米関係だ」と説明し、約45分間の懇談は終わった。だが、それから半年たった今も、米側出席者の一人はこう語る。「民主党が日本の政権に就いて本当に大丈夫か」 傘からはみ出す この人はその後も鳩山、岡田らと会うたびに、オバマ政権が重視するアフガニスタン問題などで「日本はどんな貢献ができるのか」と水を向けた。だが、鳩山らの答えは「抽象的発言が多く、具体的に何をするかが見えてこなかった」という。同盟の将来が見えないぱかりではない。民主党の政策構想には、同盟の土台を根底から崩しかねない危険すら見え隠れする。 岡田は雑誌「世界」7月号で、「米国の核の傘から半分はみ出す」と語り、@米国に核先制不使用を宣言させるA非核国への核使用を違法とする合意形成B東北アジア非核地帯構想を日本の主張とするように訴えている。 日本は国家の安全と存立を保障する究極の抑止力について第二次大戦後、一貫`して米国が提供する拡大抑止(核の傘)に依存してきた。これを政治、外交、軍事安全保障面でトータルに包み込んだものが日米安保条約体制(日米同盟)にほかならない。だが、北朝鮮の度重なる核実験もあって北朝鮮や中国の核の脅威は確実に高まっでいる。北朝鮮が核・ミサイル実験を繰り返すたびに、クリントン国務長官らが「日本の安全は保障する」と強調するのも、核の傘の信頼を担保するためだ。日韓への核の傘の補強が求められているというのに、逆にその外へ向かうとは一体どういうことなのか。 日米同盟崩壊も 「拡大抑止そのものが日米安保の軸だ。賛成なら旧米安保を認めることになるが、反対なら独自に核武装するか、非武装中立の道しかない」。防衛専門家はこう指摘し、日米安保体制の土台が揺らぐと警告する。インド洋の給油活動を停止し、米軍再編を白紙撤回させ、、地位協定も改定した上に、核の傘から出ていこうとすれば、その先に何があるか。言えるのは、日米同盟が確実に崩壊することだ。ナイが警告した「反米3点セット」を断行する本物の反米政権が生まれる日が近づいてきている。 友愛を掲げる鳩山由紀夫代表率いる民主党の外交安保政策を検証する。敬称略3面に続く 平成21年(2009年)6月16日 1面から続く 危うい 「友愛」外交 都合いい「甘えの構造」 米側の心配は、鳩山新政権が「村山富市モデル」となるのか、もしくは「盧武鉱モデル」なのかが見極められないことだ。社会党委員長だった村山富市は首相就任後の国会で、自衛隊を合憲と認め、日米安保体制を堅持すると表明した。これまでの自衛隊とすることを受け入れた。一方、故盧武鉱韓国大統領は就任後、大衆迎合型の反米左派色を徐々に強めた。危機感を抱いた米国は在韓米軍再編などを通じ、米 韓同盟挫折という事態にも備えて米軍戦略や部隊配置を微妙にシフトさせた。
見えぬ全体像 「反米」転換か、強化かが判然としない大きな理由は、民主党の外交・安保政策が「人の数ほど政策がばらぱらで、どれが実行されるのかがわからない状態」(プリスタップ米国防大学上級研究員)にあるためだ。民主党の外交安保通の一人である前原誠司も、「米国から見て、前原はわかる、長島(昭久)もわかる。岡田も知っている。だが、民主党がわからない」と全体像がみえにくい事情を認める。その前原や長島は、米次期国務次官補に指名された力ート・キャンベルら同盟重視の知日派と親しい。 彼らの描く同盟像は、鳩山や外交評論家の岡本行夫はこうした考えに手厳しい。「お前の顔をみたくない、と奥さんを家から追い出して、『病気になったら看病に来い』と命じるようなものです」。そんな「いいとこ取りをしたら、日米間の信頼が失われてしまう」と強く警鐘を鳴らす。その一方、鳩山首相が誕生した場合のケーススタディーが民主党 内でこう論議されている。「公約に従って、第一声はインド洋給油支援を即時停止する。続いて普天間移転を含む米軍再編計画を白紙撤回する」。次の内閣・防衛担当の浅尾慶一郎は5月末のテレビ番組で民主党政権での給油支援対応を問われ、即座に「退きます」と断言した。米戦略国際問題研究所のニコラス・セーチェー二日本部副部長は、鳩山政権が給油支援停止と米 菅らの唱える日米安保論とは微妙に異なる。核の傘の意味も理解しており、岡田の「非核地帯構想」とは一線を画す。その前原、長島と岡田との違いに加えて、鳩山、菅の政策もまた違ってみえる。鳩山はかつて「常駐なき安保」を唱え、在日米軍の大半を日本国外に移駐させて、有事の時だけ来援させる構想を掲げた。菅も沖縄米軍基地の「国外への移転」を主張したことがある。軍再編の白紙撤回を表明した場合、「日米は非常に不幸なことになる」と予言する。 日本見限る? さらには日米地位協定や思いやり予算の問題もある。岡田は今月12日の記者会見で「戦後体制を引きずった基地の配置だけでなく、日米地位協定見直し、思いやり予算などさまざまな課題が日米間にある」と語った。地位協定や思いやり予算の抜本的見直しは民主党の重要公約の一つだ。だが、地位協定や思いやり予算の運用には長い歴史的経緯がある。北大西洋条約機構(NATO)や韓国などの同盟国とのかかわりもあるため、米当局者やマイケル・グリーンらの懸念は深刻だ。 いくらマニフェストで「真の日米同盟」を訴えても、こうした文脈を考えれば米国側の反応がどうなるかは想像に難くない。ナイが指摘した給油支援、地位協定、米軍再編の「反米3点セット」は、日米同盟に対する民主党の真意を測る核心といっていい。 米国のシンクタンクから日米関係を見ている辰巳由紀は、日本が民主党政権になうた場合に最も心配なことは「米国からの自立を目指すという選択をすることが〉何を意味するかを真剣に考えていないのではないか」と指摘する。米国には、アジア太平洋を見渡して韓国、豪州、シンガポール、インドなど戦略的に提携を深めている国々が日本以外にもある。米国が日本を見限って他の同盟・協力国との関係強化で代替する可能性は確かに低いものの、だからといって「日米同盟がなくなるはずがない」とタカをくくって考えていたら、日本を見限って米中G2体制が浮上しかねない。,辰巳の指摘は、米国に対する「甘えの構造」そのものである。民主党の甘えとひとりよがりの安全保障政策によって、同盟が日本側から瓦解する恐れはかつてなく高い。一(敬称略) |