オピニオン 解答乱麻 参院議員 山谷えり子(産経新聞H25.8.17)
感性研ぎ澄ます夏休みを
夏、子供たちは風に吹かれて感性をとぎすませてほしい。
夏、子供たちは退屈の中に身を置き哲学の一歩を踏み出してほしい。
夏、子供たちは台所に立ち生活者としての感覚を磨いてほしい。
わが家の台所には亡夫が楽しそうに料理をしている写真が貼ってある。時に面倒と感ずることもある家事だが、丁寧に生きていくうえで、家事は欠かせない。夏休みは、子供や孫たちに家事や家族の尊さを伝えるまたと無い機会だと思う。
内閣府が6月に公表した「少子化社会対策白書」では、30代女性の未婚率がこの30年で約4倍と、少子化の最大の要因が未婚、晩婚化にあることを浮き彫りにしている。30代前半で未婚の割合は、男性47%、女性35%。30代後半では、男性36%、女性23%となっている。雇用環境の悪化もあるが、家族の価値を家庭や学校で伝えられず、気楽な消費生活を良しとする世の風潮も大きいであろうし、結婚支援活動も無いに等しい。
家族や親戚のつながりの中で、人は多くのことを学んでいく。夏休みに親戚の家に滞在することは、子供たちにとって素晴らしい冒険となろう。我が身を振り返っても、農家や商店、旅館、新聞販売所などの親戚宅に長く泊まりながら、畑仕事や接客業、新聞の折り込み作業をしたり、お墓参りでそれぞれの家の先祖の物語を聞くことは、自分を超えた大きな存在、家族の価値を感じる貴重な体験であった。
また、各地で毎朝ラジオ体操に通い、自然、習俗、方言、歴史の多様さを感じたことは、国語や社会科、理科への興味の根っことなっていったように思う。一人旅が出来るようになった学生時代の夏にはリュックを背負ってユースホステルに泊まりながら日本中の山々を登り、海で泳いだことも、国土を体を通して知る機会となった。幼少期に五感で感じた驚き、まぶしさこそが100歳までも人をみずみずしく導いてくれるように思う。
万葉集や平家物語を読んで心動かされるのは何故かと思えば、こうして過ごせた日々の恵みに行きあたる。しかし、そうは言っても今日では自由な体験もままならない状況にあることも事実である。政府が推進する教育再生の中の、自然体験、社会体験活動の予算を10倍増し、すべての中学生に2、3週間ほどの、農作業や林業体験を与えられないかと思う。
携帯電話は持たずに自然の中で生きもののエネルギーを感じ、清明心を取り戻すことは、学習や勤労の意欲、ひいては結婚し、家族をもつことへの意欲にもつながっていく。
先日広島県呉市の山中で16歳の女性の遺体が見つかった事件は、初対面の少女らを含む7人が無料通信アプリ「LINE(ライン)」でつながっての犯行とわかった衝磐は、今も大きい。報道されたLINEのやりとりからは言葉が壊れ、心が育っていない痛々しい状況が読みとれる。
モラルを壊し、性犯罪にもつながり、必要な体験を積む時間を奪う携帯電話から、本来の子供らしい時間をいかに取り戻すかは喫緊の課題である。おじいちゃん、おばあちゃん、ひとつ残りの夏は、孫たちを少し長く招き、台所に共に立ち、花の名前や虫の生態を話し、夏の思い出を加えてみませんか。
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