☆日本よ☆ ふたたび
新年早々、これから春たけなわというこの頃にいささか時期尚早と謗りを受けるかもしれないが、毎年の年末の恒例にどこかの坊さんが一年を振り返って漢字一文で要約してみせるものだが、さて今年一年が過ぎた後年末に何という文字で今年を要約してみせるのだろうか。多分『厄』という一字になりそうな気がしてならない。時間的空間的に矮小となったこの地球という惑星に今訪れている変化は未曽有なものと思われる。
それは長く暗黒だった中世が幾つかの新しい技術の誕生によって文明の資質を変え近世から近代に変質していったのに似て極めて巨きな変化と思われる。その要因の一つは世界規模な戦争の勃発の可能性と、異常気象による大規模な災害の連発だ。この二つの厄介事に相互の強い関連はあるまいが、しかし尚地球という惑星に棲息する人間たちにとっては致命的なものを感じさせられる。
そんな予感の中で私は今からおよそ四十年前に東京のあるホールで聞いた、あのブラックホールの発見者の天才的天文学者ホーキングの講演を思い出させられてならない。講演の後質問が許され専門家が多くまじった聴衆の中から面白い質問が出た。
最初の一つはこの宇宙全体の中に地球のように高度な文明を備えた人闇に似た生物が棲息(せいそく)する天体が他にいくつくらいあるだろうかだった。彼は即座にスリーミリオンと答えたものだった。その数に驚いた次の質問者が、ならば何故我々はハリウッドの作るくだらぬ宇宙SF映画などではなしに、それらの惑星からの人間以外の生物の訪問や彼等を運ぶ宇宙船を実際に目にすることがないのだろうかと質したらこれも言下に、そうした地球なみの、あるいはそれ以上の技術文明を備えた星は自然の循環が狂ってしまい、宇宙時間からすれば瞬闇的にいかなる生物も消滅してしまうからだと答えた。
そこで私が挙手して「あなたのいう宇宙時聞にくらべれば瞬間的という時問は地球時間では何年ほどのものですか」と質したらこれまた言下に「百年」と彼が答えてくれたものだった。
話し手の彼は天才ではあっても神様ではなかろうが、あの時の会話は私にとっては衝動的なものだった。あれから四十年たった今、産業革命によって中世が終わって今日まで地球の平均気温はどんどん上昇し温暖化は止まることなく進展している。NASA(米航空宇宙局)のハンセン教授が予告した通り後十数年すれば北極の氷は解けて消滅する。
そして北極海に面する国々は海底に眠る燃料資源の収奪に今から血眼になりつつある。そしてその資源の活用によって文明は高度化し温暖化はさらに進み世界の各地で異常気象が頻発していくだろう。
私が知事時代に訪れた赤道直下のツバルは世界中で解けた氷が流れこみ量を増した海水が地球の自転の遠心力で水位が上がり国全体が埋没しつつあった。海水に埋没した土地では主食のタロ芋がとれなくなった住民たちはオーストラリアからの援助物資の古肉や期限切れの缶詰で食いつなぎ自暴自棄になった高齢者たちはマリフアナを吸って恐怖から逃れようとしている様だった。
そしてその一方、前にも記したようにアラブ人から教わった航海技術によって十五世紀に初めて大西洋を渡り新大陸を発見し有色人種を隷属させ、彼等がキリスト教に改宗しないかぎり獣と見なすと、時の法王パウロ三世が宣したように中世以来続いてきたキリスト教文明をかざして有色人種を支配収奪してきた白人たちの世界支配は終焉し、イスラム国が表象する一神教同士の宗教戦争が蔓延しつつある中でヨーロッパは衰退しEU(欧州連合)の崩壊は目前のこととなってきた。
ホーキングの予言が暗示する大規模な破滅を前に次の世代の者たちのために、我々はかつて東欧の詩人ゲオルグが歌ったように『たとえ明日地球が滅びるとも、君は今日林檎の木を植える』という志を持ち直さなくてはなるまいに。
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