〈壱岐市〉発足記念特集
【特別インタビュー】
住民参加の地域づくりを将来は都道府県の合併も
地方制度調査会会長 諸井 虔氏に聞く
中央から地方へ・・・。地方分権・地方主権のうねりが広まりつつある。まさに 「地方の時代」 の到来です。その旗を振るのが、総理大臣の諮問機関で地方制度に関する重要事項を審議する地方制度調査会。その会長の諸井虔氏に市町村合併の意義や今後の地方自治のあり方などを聞きました。
(インタビュアー 東京雪州会幹事長・日本記者クラブ会員・牧山康敏)
Q:・・・諸井会長は壱岐には行かれたことはありませんか。
諸井 まだないですね。昔、歴史の勉強で壱岐や対馬について教わりましたが、大変有名なところで、文化的な遺産も多いようですね。その壱岐が来年三月には「壱岐市」として発足するとのこと、おめでとうございます。
Q:・・・ところで最近の市町村合餅を称して 「平成の大合併」とも言われています。諸井会長はその推進役でもありますので、その狙いを改めてお聞きします。
諸井 地方分権を進める動きが活発ですが、その場合、市町村が行政の受け皿になる。住民の意向をよく掌握し、その意向に沿って行政を進めていく。これが地方分権の狙いです。小さな町や村では行政の受け皿として十分に機能しない。住民の満足のいく行政が出来ない。そこで市町村が創意工夫し、地域の特色を生かして町をどう発展させるかが重要になるが、小さな町村では将来囲が描きにくい。合併できるところは合併して、より良い住民サービスが行えるように基礎的な自治体を作ることが望ましいわけです。
Q:・・・合併によって新しく発足する自治体にとって何が大切でしょ
うか。
諸井 住民の意向に沿って住民の考える優先順位に基づいて行政を進めていくことです。また住民自身も自分たちの地域をこういう市や町にしたい、との意識を持って協力していくことが大事ですね。こうした合併は本来、自主的に進めるべきもので、国や都道府県が強制するものではない。
Q:・・・合併によって地域の特色が失われるとの懸念も一方にはあります。
諸井 小さくても長い歴史があり、住民の連帯がある。その連帯感が崩れるのではないかと心配するところは確かにある。合併で難しいのは会社の合併も同じですが、新しい地名 (社名)、新首長(新社長)、新所在地をどうするかです。ただ、今うかがうと壱岐は四町が一つになって壱岐市になるという。なかなかいい形だと思いますよ。合併したくても出来ないところもあります。
Q:・・・市町村合併が今後、都道府県合併や道州制にも発展していくでしょうか。
諸井 市町村が合併で体力をつけてくると、都道府県などでも従来のままの規模でいいのか、ということになる。通信や交通手段が発達しているとき、県なども合併しなければ対応できなくなるとの意見は強い。道州制と呼ぶかどうか別にして都道府県の合併が進めばプロック制になることも考えられます。
Q:・・・首長の大きな仕事は、中央から補助金をいかに多くとってくるかで評価される面もありましたが、今ではむしろ補助金のあり方を見直す機運が強まっていますね。
諸井 国が県や市町村に仕事を押し付ける。その代わり補助金を出すという。ところが補助条件がついて、各省庁の言うとおりにしなければならず、地域の実態にあわない場合がある。そういう条件のつく補助金ではなく税源移譲や交付税などを見直して、地方が自分の考えで地域に即した事業が出来るようにすべきとの声が強まってきているわけです。
Q:・・・この市町村合併が進めば明治以来続いてきた中央集権制度にも風穴が開きますか。
諸井 中央集権制度も国の発展にとって役立つ面も多かった。特に高度成長期などには国レベルで事業を推進し、ほぼ全国平均的な発展が出来た。ただし最近は中央省庁が省益の拡大を狙って動く傾向が強く、中央集権ではうまくいかない面も出ている。特に国の財源難という事情も大きい。地方のことは地方で考えて実行していく情勢になってきたといえる。
Q:・・・最後に新「壱岐市民」 へのメッセージをお願いします。
諸井 壱岐には歴史的な文化遺産や立派な自然もあるでしょう。そうした島の特徴や資源を生かした壱岐独特の地域づくりをされたらいいと思う。少子化が進むと老人が増え、介護などの面でも合併しないと難しくなる。今回の合併で壱岐がいい方向にいくよう期待しています。私も出来れば一度、訪ねてみたいですね。
Q:・・・大変に有意義なお話を有り難うございました。今度はぜひ「壱岐市」 に足を運んで合併後の成果をみて下さい。
●インタビューを終えて
財界きっての論客である。十数年前、諸井会長が経済同友会副代表幹事時代に経営・雇用問題でインタビューしたことがある。論旨明快、ソフトなタツチながら鋭く分析し見通す洞察力には定評がある。ちょうど一年前にも地方分権のテーマで講話を聞いた。合併を進め 「強い市町村づくり」 に意欲をみせる。 株父セメントの社長を長く務め、その後小野田セメント、日本
セメントとの合併で国際競争力に道筋をつけ、いまは地方制度改革を通じて国家の将来展望を描く。地方の自主性、つまり地方主権の時代をリードする気迫と熱意が言葉の端々ににじむ。毎週日曜朝のテレビ番組 「関口宏」 のサンデー・モーニングのレギュラーでもある。
この夏、石原慎太郎東京都知事を始め北川正恭前三重県知事、堂本暁子千葉県知事ら多くの知事の記者会見に出席したが、そこで共通している認識は、中央 (国) に頼らず、いかに地方の主体性を発揮して地方主権を確立するか、に集約される。新「壱岐市」が全国の市町村合併のモデルとなるような特色を出すよう期待したい。
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[もろい・けん]一九二八年東京生まれ。五三年東京大学法学部卒、同年日本興業銀行入行を経て六七年秩父セメント (現太平洋セメント) に入社。七六年に社長就任、八五年会長。企業合併を推進し二〇〇〇年から太平洋セメント相談役。二〇〇一年に地方制度調査会長就任。この間、経済同友会副代表幹事、日経連副会長、地方分権推進委員会委員長、税制調査会委員などを歴任。今も道路公団改革本部長など多くの要職を務める。
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