歴史観を見直せ
渡辺: 日本を脅かす勢力が本格的に出てきたのは幕末以降です。ロシアの南下政策が近現代の日本にとっての決定的なテーマでした。日英同盟によってこれを食い止めました。もう一つは、ロシアに発した国際共産主義の波で、日米同盟によって食い止めることができました。日本は自由主義陣営の確たる国として参加できているという構図があったわけです。だが、このところ日米同盟は劣化し、名存実亡となる司能性があります。
櫻井: 大東亜戦争こそ題材にして学ぶべきです。大東亜戦争は非常に悪い戦争で、日本は悪いことばかりしたとなっていますが、それは事実とはかけ離れていることを学びたいものです。
渡辺: アメリカにすり込まれました。
櫻井: 確かに多くの失敗も犯して、敗れました。だが、その中にも日本人の立派な魂はありました。そうしたことを、歴史教育で一つ一つ具体的に教えていくときだと思います。山本七平賞を受賞された門田隆将さんの「この命、義に捧ぐ」という陸軍中将、根本博さんの物語があります。大戦後の国共内戦の際、日本から密航して台湾に行き、台湾軍を率いて戦って守り抜き、義をまっとうしました。結果、台湾は中国に取られないで済みました。
渡辺: そうですね。
櫻井: 樺太・真岡にいた女性交換手たちはポツダム宣言受諾後も攻撃してきたソ連軍の捕虜にならないようにと自決して尊厳を守りました。日本人として立派に責務を果たし筋を通した事例は多くありました。何もかも日本が悪いというのは、勝者の見方です。
渡辺: 不正で不道徳な戦いを日本がやって敗れた…。よくぞあそこまで日本人は染め上けられたという感じが私にはあります。
櫻井: では侵略戦争を称賛するのかという反論が出ると思いますが、侵略戦争かどうかというのは、それこそ「パール判事の日本無罪論」(*1)やアメリカの公使ジョン・マクマリーの「平和はいかに失われたか」(*2)、レジナルド・ジョンストンの「紫禁城の黄昏」(*3)など非常に多くのいい本があります。それらを読むことも含めての歴史教育が必要です。
渡辺: 私は、子供のとき、甲府で空襲を受けて今も体にやけどがあります。
櫻井: おいくつでしたか。
渡辺: 6歳で鮮明に覚えています。戦争は敗者だけではなく勝者にもトラウマを残します。民間人を殺裁したことに対してアメリカ人の心は休まりません。また、日本人が残虐の限りを尽くしたと主張しなければ抗日戦争勝利を正統性の根拠とする中国共産党には立つ瀬がありません。韓国と北朝鮮が反日でないわけはない。中国も朝鮮半島も、日本を徹底的に攻撃の対象としています。それが冷戦期には抑え込まれていました。冷戦が崩壊した途端に、安んじて日本を攻撃することができるようになったわけです。
国交樹立をうたった1972年の日中共同声明の交渉で議論されていることはただ2つ。台湾の帰属と戦時賠償です。歴史認識は一言も言っていません。
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☆保守の精神取り戻せ
ー 今の政治で保守が掲げていくべきものは何でしょうか
櫻井: 憲法、教育、皇室の3つの価値観を標榜する政党はどこにも存在しません。民主党は最初からそういう考えがありませんし、自民党も谷垣禎一総裁の下ではむしろ3つの論点から遠ざかる傾向にあります。同質性が高い。誇れる国をつくりたいと切望しへ次の世代の日本人、またその次の世代に恥ずかしくない国家をつくってバトンタッチしていきたいと考える人たちには支える政党がないのが現実です。国民は民主党を選んだつもりですけれど、実は社会党政権だったということです。一方の自民党は55年体制の下で極めて怠惰な政治を行ってきました。
渡辺: 憲法改正は…。
櫻井: 自主憲法制定の理想を1mmたりとも実現しようとしなかった。「戦後レジームからの脱却」を掲げた安倍晋三さんも足を引っ張られてしまった。今の自民党は55年体制以降の自民党の延長線上にありますので変わる見込みはないでしょう。おのずと第三の道に行かざるを得ないのではないでしようか。
渡辺: 大連立でうまくいくかどうか-わかりません。政界が再編成されて、政界が再編成されて、本物の第三極ができつかどうか。保守の新しい軸をつくっていく努力はかなり長い時間を要すると思います。
一 いつごろから堕落したとお考えですか
渡辺: 70年安保闘争はまるで盛り上がりのない運動でした。その頃から日本の堕落が始まったと考えます。日米共通の敵はソ連ですから、政治的に安定し、産業技術も基礎技術も強い、もちろん米軍艦船の補修能力もある日本に基地を全国に置かせてもらって、そのことによって対ソ戦にアメリカが勝利できたというわけです。
冷戦下でのかりそめの平和の中で、自主憲法制定という保守が持っていたはずの精神までも、ぼろぼろになってしまった。左翼の減退と同時に保守も減退してしまった。そして冷戦が終わります。ここで一度立て直しをするための思想が生まれてこなかった。いまなお憲法の前文のような精神にこだわるところに、大きな問題があります。まさに日本人の知的な堕落なのでしょう。
櫻井: ハンチントンが世界を8つの文明に分けて解説しました(*4),日本文明は日本一国として描かれていますね。優れた文明であったと自覚すべきだと思います。
渡辺: そうですよね、もちろん。
櫻井: まさにこの日本文明の価値観は、世界に一つの範を示し得るものです。国民が幸せであり、比較的差別も格差も少なく、人間社会の理想を実現したかのような豊かさの平等性が行き渡っていました。激しい競い合いを特徴とするかのようなグローバリズムの中にいかにこの穏やかな日本的文明を溶け込ませていくか。人類をより良い方向に引っ張っていくためにも、日本が日本的価値観を説明し、強く主張していくことが大事だと思います。
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☆日米同盟を強固に
ー この1年に向けた決意のほどをお願いします
櫻井: 世界に対してどのように日本の立場をわからせていくか。さまざまな提言と主張は日本語だけでなく英語、中国語、韓国語で発信していきたい。国家の情報発信と情報収集・分析機能を強めていくことが大事です。
渡辺: 学生と毎日接していて思うことは、日本人が一番恐れなければならないのは日本人だと。領海を侵犯されても別にどうということもないという感覚で、屈辱を与えられ続けた次の世代が暴発してしまうのではないか。そのようにならないためにも日米同盟を強固なものにしていく。
日米同盟がしっかりすることによって初めて日本がアジアに向けて凛たる国家であるということができるわけです。民主党を見ていると、2国間同盟は古いという考え方、多国間協議がいいという思想です。これはダメです。利害を共有する2国間の同盟が本物の同盟であって、3国、4国となると機能しましません。日英同盟がついえて、その代わり,日英米仏の4国同盟で大正期から昭和前期の平和を守ろうとしましたが、4国同盟は一度も機能しなかった。6カ国協議はもう何の機能もしていない。北朝鮮に核開発の余裕を与えるだけの協議の場になってしまっています。
桜井: 日本社会には暴発するほどの元気もなくて、冒頭で申し上げたように液状化しつつあると心配しています。そんな日本人に、昔風に聞こえるかもしれませんが、「立派な日本人になることの大切さ」「戦後日本人が日本人でなくなったことの問題」を説きたいと思います。まず日本国が、普通の民主主義国家の要件である外交力と・軍事力を備えたまともな国になり、日本人がまともな日本人になることから再建が始まります。
そこにたどり着くための歴史教育とともに、国際社会を広く見て、その一員であるという意識を常に忘れないでほしい。健全なナショナリズムは健全な国際主義なしにはあり得ないことも強調したいですね。
渡辺: そうですね一
*1 パール判事の日本無罪論 小学館文庫。田中正明著。東京裁判にインドから判事として参加したパール博士が東京裁判は近代法の大原則である事後法の禁止にあたるとして違法性を追及した書。
*2 平和はいかに失われたか 原書房。中国に赴任していた米外交官、ジョン・マクマリーのメモとその解説。満州事変は国民党政府が挑発したことによって起きたなどとする論旨で、当時の複雑な極東情勢を分析している。
*3 紫禁城の黄昏 祥伝社ほか。清朝最後の皇帝で、満州国の皇帝ともなった薄儀のイギリス人家庭教師、レジナルド・ジョンストンが著した中国近代史の詳細な証言。
*4 文明の衝突と21世紀の日本 集英社新書。ハーバード大教授のサミュエル・ハンチントンは1993年に冷戦後の新秩序を解説した文明の衝突」を発表。2000年に日本に焦点をあてた続編ともいえる本書を刊行した。
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