ごあいさつ
耳庵・松永安左工門氏は、政治家・実業家としての精力的な活動のかたわら、戦前から茶の湯の道に入られ、益田鈍翁、原三渓など近代数寄者を代表する人々と、その晩年に親しく交わられ、その後継者といっても過言ではない独自の茶の世界を創り上げられました。戦前には埼玉県志木の柳瀬山荘を拠点として多くの数寄者や文化人らとの交流を持たれ、また戦後は小田原に松永記念館を開設されて、茶の湯を楽しまれるかたわら、自らが蒐集した茶道具類を中心とする古美術品を一般に公開されるなど、戦前戦後を通じて積極的に文化活動を繰り広げられました。戦前に蒐集された主な所蔵品は、期するところがあったのか、戦後まもなく、柳瀬山荘の土地建物とともに東京国立博物館に寄贈されました。小田原の松永記念館は、松永安左工門氏の他界にともない整理閉館されることとなりましたが、その時に、若いころ活動された縁ある福岡市に是非にとの関係者の熱望に応えて、折しも開設準備中であった福岡市美術館に幸運にもご寄贈いただくことになりました。その結果、国宝、「釈迦金棺出現図」や若干の美濃の焼物、エジプト・オリエントの作品類を除いた、重要文化財19件、重要美術品11件を含む、主要な作品249件を一括して寄贈いただいた当館は、「松永記念館室」という専用展示室を設け、「松永コレクション」として常設公開することになり、今日を迎えております。本年、開館20周年を迎える福岡市美術館では、当館の代表的コレクションであるこの松永コレクションを、より詳しくまた楽しくご鑑賞いただくために、改訂版として新たに所蔵品図録を作成いたしました。これまでにも増して一層多くの方々に親しくご鑑賞いただくためのよき指針となれば、と祈念してやみません。
平成11年2月福岡市美術館


肥満の女