世界一の野菜ブランド"丸の内産"

屋内の大規模な栽培設備を用いて、天候や季節に関係なく安全でおいしい野菜を大量生産する「野菜工場」が、東京都心のオフィスビルに続々進出している。東京湾の港や海上空港に近いというアクセスの良さも手伝って、輸出向け高級野菜の一大拠点になりつつある。かつて工業立国を果たしたわが国が、農業大国と呼ばれる日も近い。

「ジー、カシャッ」外気が入らないよう密閉された完全コンピューター管理の無人栽培室で、ロボットが収穫や育苗、植え替えなどの作業を黙々とこなす。天井に届きそうな10段重ね(ーフロア)の栽培棚には、レタスなどの葉物野菜がびっしり。太陽光の役目はLED。土も一切使わず、栄養分をバランスよく配合した養液が根の部分に噴霧される。人が入らないこの場所はまさに工場だ。

ここは東京・丸の内のオフィスビル。窓の外には東京駅の赤レンガ駅舎も見える。テレワーク(在宅勤務)の普及で都心への通勤者が大幅に減ったことで、オフィスビル需要が低下。20世紀以来の再開発でビルが林立したビジネス街も閑散とし、大手不動産会社は新たな需要喚起が長年の課題とされていた。

ここは東京・丸の内のオフィスビル。窓の外には東京駅の赤レンガ駅舎も見える。テレワーク(在宅勤務)の普及で都心への通勤者が大幅に減ったことで、オフィスビル需要が低下。20世紀以来の再開発でビルが林立したビジネス街も閑散とし、大手不動産会社は新たな需要喚起が長年の課題とされていた。

そこに目をつけたのが、大手野菜メーカー。従来の農場での栽培は消費者減のため採算崩れとなったため、利幅の厚い高級野菜の大量生産へと方向転換。機械化で人件費を最大限削り、賃料が大幅に低下したオフィスビルの再利用という形で都心での運営にこぎつけた。

「3日後にホウレンソウ10トンですね」。営業担当の部署がある別のフロアから威勢のいい声が聞こえてきた。通常の受注・出荷業務はオンラインで即座に自動処理されるが、世界中から寄せられる突発的な大口注文だけには、100人体制で24時間対応している。フロア内は各国の言葉が飛び交い、ロボットしかいない栽培室とは打って変わって活気にあふれる。

こういった好業績に沸く都心の「野菜工場ビル」では、従業員も"グリーンカラーともてはやされ、いまや学生の就職先として人気も上昇中だ。ビルの入居率も往時に近く回復しつつある。

日本は工場産野菜で世界トップの輸出量を誇る。葉物を中心にトマトやジャガイモなど、ほとんどの野菜を生産できる。最近では、農家の高齢化で野菜生産が停滞する中国や、人口増で農作物の供給が追いつかない新興国に向けた輸出が急伸している。各国からの視察も相次いでいる。

付加価値の高い高級品でも他の追随を許さない。養液の成分や光の当て方など最先端の栽培技術を駆使し、ビタミン類を豊富に含んだ栄養補助野菜や、野菜嫌いの人でも食べられるように食味を工夫した品目などを提供している。

いまや"丸の内産〃も高値で世界中に流通する。とりわけアジアの宮裕層にとって「MARUNOUCH1」といえば高級野菜ブランドの代名詞になっている。

温度や湿度、生育に必要な二酸化炭素濃度などを徹底管理し、無菌・無農薬で鮮度を長く保ったまま世界中に出荷される(画像協力・千葉大学)

野菜工場の研奮究に取り組む千葉大学の丸尾達教授によると、これまでネックとされてきた野菜工場の生産コストは「栽培技術の向上や品種改良なとの結果、この3年間で3割以上も下がった。安定供給が求められる加工・業務用でも十分な価価格鵬争力を持つ」という。さらに、「野菜工場には従来の農業を"ハイテク産業。へと大きく変える可能性がある」と期待を込めている。