産経新聞 平成27年(2015年)12月18日金曜日 主張![]() ![]() ![]() 改めて、この裁判の意味を問いたい。公判の焦点は何だったか。それはひとえに、民主主義の根幹を成す言論、報道の目由が韓国に存在ずるか、にあった。裁かれたのは、韓国である。韓国の朴槿恵大統領に関するコラムをめぐり、名誉毀損で在宅起訴された産経新聞の加藤達也前ソウル.支局長に対する判決公判がソウル中央地裁であり、李東根裁判長は、無罪を言い渡しだ。 妥当な結論ある。無罪の理田について判決は「韓国は民主主義制度を尊重する。外国人記者に対ずる表現の自由を差別的に制限できない。本件も言論の自由の保護内に含まれる」などとし、「記事に誹謗する目的は認められない」とも述べた。 最後の最後で、韓国司法の独立性や矜持を国際社会に示したものと受け止めたい。ただ判決公判では異例の光景もみられた..韓国外務省は日韓関係を考慮し善処するよう求める文書を裁判所に提出し,公判の冒頭で裁判長がこれを読み上けた。判決が行政の影響下にあったことを疑わせるもので、「法の支配 が揺らぐ。韓国司法には明白な独自判断を示してほしかった。 韓国検察に猛省を求める 韓国の検察当局には、猛省を求めたい。産経新聞はこの問題で、一貫して起訴の撤回を求めてきた。公人中のの公人である大統領に対する論評が名誉棄損に当たるなら、そこに表現や報道の自由があるとはいえない。報道に対して公権力の行使で対処する起訴そのものに、正当性はなかった。間題とされたコラムは、旅客船「セウォル号」沈没事故当日の朴大統領の所在が明確でなかったことの顛末について、韓国紙の記事や噂などを紹介し、これに論評加えたものだ。 意見陳述でも「大惨事当日の大統領の動静は関心事であり、韓国社会において大統領をめぐる噂が流れたという事実も、特派員として伝えるべき事柄であると考えた」などと述ぺた。コラム中でも噂を真偽不明のものとしており、この真実性については最初から争点とはなり得なかった。 また検察側は、前支局長がコラムを書いた動機を「別の報道が原因で大統領府から出入りを禁じられており、抗議の意味で報道したと考えられる」としていた。「被害者である朴大統領にも問いたい。 「被害感情」に疑問残る 検察側は公判で「被害者は強い処罰を求めている」と述べたが、大統領自身はこれまで「司法の場に委ねている」と述べるのみで、被害感情や処罰意思について公の場で口にしたことはなかった。 前支局長を情報通信網法に基づく名誉毀損罪で告発したのは市民団体だつたが、同法は、被害者の恵思に反して起訴できないと定めている.大続領は起訴を止められる立場にあった。公入である大統領が報道に対し、被害感情を本当に有していたのか。罪の成立に不可欠な要素が問われないまま行われた起訴であり、公判だった。 前支局長に対しては.出国禁止措置が繰り返され、今年4月に措置の解徐を受けて帰国するまで、その期間は8カ月を超えた。退廷時に暴漢に卵を投げつけられ、車が傷つけられたこともある。告訴を含む、これら問題をめぐっては、国際ジャーナリスト組織「国境なき記者団」や世界の報道機関の会員組織「国際新聞編集者協会」などが抗議声明を出し、米紙なども韓国当局の措置を批判する記事を掲載してきた。 日本の外務省は3月、韓国との関係を紹介するホームページから「基本的な価値を共有する」との文言を削除した。共有できなくなった基本的価値とは、「法の支配」や「言論、報道の自由」のことであり、前支局長の起訴や出国禁止でこれに疑問を生じたということだったのだろう。 今回の判決が、韓国が真に自由と民主主義の普遍的価値を共有するグループに回帰する契機と なるなら歓迎する。判決の意味を、韓国は国を挙げて吟味してほしい。 |