情報源:産経新聞 平成26年(2014)4月21日 オピニオン

李 方子(リバンジャ=リマサコ)妃を支えた 金 寿妊妊(キム スイム)

月二度の墓参りは600回超

韓国の母と・・・慕われたという李 方子


〈李方子(リバンジャ=マサコ)妃殿下が1989年に亡くなってかイウンら月2度、旧暦の1日と15日は欠かさず李恨(イウン)殿下と方子妃が眠る陵墓「英園」にお参りする。

自宅から英園までは列車やバスを3回乗り換え、片道およそ2時間半。さらにバスを降りてから、風呂敷に包んだ両殿下へのお供え物を携え、小高い丘を20分ほど歩く。老身にはこたえるはずだ〉

雪だろうと雨だろうと、妃殿下が恋しいからご陵参りをするのです。嵐の後に訪れたときは、行く手を遮る倒木に難儀したこともあります。吹雪の中を足を滑らせながら訪ねたときは「なぜこんなに苦労してまで来たのだろうか」と自問しながら切なくなったこともあります。

あるときは大きなヘビがお墓の前に横たわっていました。普通なら悲鳴を上げて逃げ出していたところですが、不思議と妃殿下が守ってくださっているような気がして平気でした。


生前、妃殿下は李坂殿下の墓参りには必ず梨を持っていかれていましたね。殿下がお好きだったのかもしれません。妃殿下は、開城の伝統菓子で小麦粉や蜂蜜で作った「オメギ」をよく好んで召し上がっておられたので、英園に行くときは必ず作っていきます。日本のお客さまから頂いたようかんなども、きっと懐かしがってくださるのではないかとお持ちします。

妃殿下が亡くなって間もない頃は、ご陵参りに一緒に行く仲間もいましたが、今ではみな足腰が衰えたり、亡くなったりして1人でお参りすることが多くなりました。どんなに体の調子が悪いときでも、英園で妃殿下に話しかけると身も心も軽くなるんです。こうやって耳も遠くならず、自分の足でどこにでも出かけられるのも妃殿下が見守ってくださっているおかげだと思います。

とくに信仰している宗教はありませんが、周囲からは「李方子教を信じている」と言われています。

〈英園の片隅には恨殿下と方子妃の息子、李玖(イグ)殿下も埋葬されている〉本当におかわいそうな方です。玖さまのお墓には墓標もないので、英園を訪れた人たちがみな「誰のお墓ですか」と尋ねるのでいつも胸が詰まります。

本来、李王家の血を引く皇世孫としてご両親とは別のりっぱな陵墓に眠るべき方です。あまりにも玖さまがふびんなので、李王家の子孫たちの組織「全州李氏大同宗約院」に話したら、「
王陵は世界文化遺産になっているのでユネスコに聞いてほしい」といわれる始末です。

実は英園に続く道には妃殿下が生前、わざわざ日本から空輸して植えた十数本の八重桜がありました。恨殿下(5月1日)と妃殿下(4月30日)の命日のころにちょうど咲き誇ります。

妃殿下は生前、その八重桜が咲くのをほんとうに楽しみにしておられましたが、妃殿下が亡くなった後、なぜか八重桜はすべて切り倒されてしまいました。

〈李玖殿下は生前、父親が亡くなった日を「昌徳宮楽善斎の庭の中の、ありとあらゆる花が、美しく咲きみだれた日でした」と振り返っている〉
妃殿下がお住まいだったころは楽善斎の庭にもたくさんの草木が植えられていました。その美しかった庭も、今は砂利が敷き詰められているだけの殺風景なものになってしまいました。

「元の姿に戻す」とか何とか言っていましたが、なぜあんなことをするのか理解できません。この国は、日本的なものを何でもみな消し去ろうとするのです。(聞き手水沼啓子)

壱岐国ルネッサンス