平成21年(2009年)1月13日 火曜日
素人情報に踊らされた戟国  ネットで次々予言 盗作”「教祖」”を逮捕

 【ソウル=水招啓子】インターネットの掲示板に韓国の経済危機をあおる書き込みをしたとして、無職の男(31)が電気通信事業法違反の疑いで逮捕されたことが韓国で波紋を呼んでいる。ネット上で「ミネルバ」の筆名を使って予測した、通貨ウォンや株価の暴落、米証券大手リーマン・ブラザーズの破綻などを次々と的中させ、「経済大統領」「教祖」 の異名を取るカリスマ的存在だっただけに、韓国社会に与えた衝撃は大きい。

 ミネルバはもともとローマ神話の「知恵の女神」のことを指す。逮捕されるまでこの男の正体はわからず、ネット上では「米国で修士号を取得した、証券会社出身の50代」で通っており、その豊富な経済知識と論客ぶりから、ネットユーザーの間で支持されていた。

 また、金大中政権時代の経済首席秘書官を務めた名門大の教授やニュースキャスターまでもが「経済の師」 「(政府は)彼に耳を傾けるべきだ」などと祭り上げたほどだった。 しかし、逮捕されて明らかになったミネルバの実像は、理工系短大出身の無職の男。留学経験はなく、経済の知識はすべて本と経済専門サイトなどで得たという。経済予測のほとんどは他の専門家の分析を引用した”盗作”で、インチキ経済専門家の知識や予測に韓国社会が振り回された形だ。

 男は昨年末、「韓国政府が主要な金融機関、企業にドル買いの禁止を要請」という虚偽の情報を書き込んだ疑いで今月8日、ソウル中央地検に緊急逮捕された。 この逮捕について、「ネットで表現したことにより一般市民を逮捕するのはやりすぎ」「表現の自由の侵害だ」という批判的な見方のほか、「ネットユーザーに影響力を持つ場合、一般市民だろうが責任を負うペきだ」「専門家を偽り、社会混乱をたくらむのはいけないことだ」との意見も出るなど賛否両論。政界で、も、与党は逮捕を「当然」としているが、野党は「民主主義の後退」と反発している。

また、ミネルバの逮捕が伝わると、男が書き込んでいた、ネット掲示板には釈放を求める”署名”が殺到し、わずか数時間で5000件を突破。逮捕状を出した判事の顔写真も、ネット上に流出し、非難の書き込みが相次いだ。検察当局は、判事の個人情報を流した人物の処罰を検討するなど、彼紋はさらに広がっている。
 
 韓国のネット社会 韓国はIT(情報技術)先進国と呼ばれ、総人口約4800万人のうち、ネット人口は3500万人を超える。ただ、匿名性を盾に掲示板上での誹謗(ひぼう)中傷が絶えず、心ない書き込みが原因で有名人らの自殺も相次いでいる。本人確認ができた人のみが書き込みをできる「実名制」を2007年から実施しているが、悪質な書き込みは後を絶たず、「サイバー侮辱罪」の導入が検討されている。また、昨年の反米デモでも世論形成の場としてネットが利用された。