児童虐待への緊急提言「自分のこととして」 母親学 NPO法人日本子守唄協会理事長  西舘好子

幼いわが子に命を落とすほどの暴力を振るう。骨と皮になるまで食事を与えず餓死させてしまう…。児童虐待による悲惨な事件の連鎖が止まらない。何とか止める手だてはなかったのか?周囲は気付かなかったのか?児童虐待問題に取り組むNPO法人日本子守唄協会の西舘好子理事長は、「虐待をする母親は疎外感に悩んでいるケースが多い。みんなが自分の問題として意識しないと虐待は無くならない」と訴える。

子守唄協会へ虐待の相談をしてきたお母さんは、「わが子が好きになれない」「かわいくない」と訴えるケースがほとんど。姑や夫に子供が似ているのを見て、嫌悪感を抱くこともある。こうした母親は、社会や職場、友人関係で「疎外感」を感じている場合が多い。育児に疲れ切っているのに夫は無関心、相談したり、助けてくれたりする人もいない。つい「この子さえいなければ」と憎しみがわが子に向いてしまう。

だから悩みを少し聞いてあげるだけでも、お母さんの気持ちは晴れる。家の中に閉じこもっていないで、子供と公園に行ったり、散歩して他の人の顔を見たりすることが気分転換になるのだ。

虐待にはいくつかのサインがある。家がゴミ箱のように汚れているのは要注意。日々の生活に余裕がなくなり、母親が「もうどうでもいい」という投げやりな気持ちになっていることが多いからだ。子供の身体や身なりにも兆候はある。歯が虫歯だらけだったり、耳あかがたまっていたり、汚れた服を着たりしていたら虐待を疑うべきだ。

また、子供に落ち着きがなく、いつもおどおどしていたり、反対に異常な敵意を持った目つきをしたりする場合もある。だが、最近はこうしたサインを見つけても"見て見ぬふり"をする人たちが少なくない。

人間関係が希薄になり、煩わしい問題に巻き込まれたくない、と考えてしまう。核家族化によって、人として最も大切な「育児の知恵」の伝承も行われなくなり、お母さんはますます孤独に悩むことになるのだ。

虐待は、刑法上の罪を重くしたり、通報を奨励したりしても決して無くなりはしない。

新型インフルエンザに備えるために、国民みんながうがいや手洗いを励行したように、社会全体が「自分の問題」として虐待をとらえ、意識を高めていくこと以外にない。それが虐待の連鎖を止める唯一の方法である。決して人ごとではないのだ。

〈にしだて・よしこ〉昭和15年東京生まれ。平成12年、日本子守唄協会を設立っ現在、子守唄の力で虐待に歯止めをかける全国キャラバンプロジェクトを展開中。"みんなが自分のこととして考えないと、虐待は止められない"

◇児童相談所全国共通ダイヤルは0570・064・000です(一部地域で使えないことがあります)。

(情報源:産経新聞H22.3.24 母親学から)