教科書検定見直しへ
首相言及「近隣諸国条項」撤廃も
安倍晋三首相が10日の衆院予算委員会で、教科書検定制度の見直しに言及した。「前回の(第1次)安倍内閣で教育基本法を改正し、教育の目標に伝統文化の尊重や愛国心や郷土愛も書いたが、検定基準では改正基本法の精神が生かされていない。検定官(教科書調査官)自体にその認識がない」と述べた。首相が国会で教科書検定制度の見直しに踏み込んだのは初めてで、中国や韓国などのアジア諸国に配慮するよう求める「近隣諸国条項」の撤廃を視野に入れた発言とみられる。=2面に「主張」産経新聞
予算委では、下村博文文部科学相も「現状と課題を整理し見直しを検討したい」と表明した。小、中、高校で配布される教科書は、文部科学省が告示する基準に沿って検定を受けている。ただ、社会科の基準には「近隣諸国条項」があり、歴史教科書で自虐的な記述が相次ぐ原因とされてきた。
予算委では、自民党の西川京子氏や日本維新の会の中山成彬氏が、一部の教科書が南京事件に関し「30万人虐殺」と記述していることを「事実と違う」と指摘した。首相は「初等中等の段階で自分のアイデンティティーに誇りや自信を持つのは基本だ」と答弁した。
下村氏も「この国に生まてよかったと思える歴史認識を教科書に書き込むこことが必要だ」と強調した。首相は、使用する教科書を地区ごとに選ぶ教科書採択制度についても「採択結果が一部の教科書に偏っている。教育的な視点で採択されているかも見ていく必要がある。と述べ、制度改革の必要性を強調した。
自虐的な教科書記述はこれまでも問題になっており、自民党は昨年衆院選の公約「子供たちが日本の伝統文化に誇りを持てる内容の教科書で学べるよう、教科書検定基準を抜本的に改善し、近隣諸国条項も見直す」と明記している。
安倍政権が教科書検定制度の見直しを目指す。その背景には現行制度では社会科を中心に多くの教科書にはびこる自虐史観の記述に歯止めをかけることができず、改正教育基本法に掲げた愛国心の育成を阻害しているとの考えがある。その源流ともいえるのが、近現代史の教科書記述で近隣アジア諸国への配慮を求めた「近隣諸国条項」だ。
条項導入のきっかけは昭和57年の高校教科書検定で、当時の文部省が、中国華北への日本の「侵略」を「進出」に書き換えさせたと報道されたことだった。実際には誤報だったが、中国と韓国が強く反発して外交問題に発展したため、沈静化を図ろうと検定基準に付け加えた。これを機に、「慰安婦問題」や「南京事件」など主に歴史認識の問題について、自虐史観の記述が急増していく。
当時、文部官僚として条項導入に携わった元愛媛県知事の加戸守行氏は「条項導入で、省内は中国と韓国に関する記述はアンタッチャブルですべて認めざるを得ないという雰囲気に陥った。一方の教科書会社側は『削れるものなら削ってみろ』という勢いで自虐史観の記述を強めていき、明らかに条項導入前より過激になった」と振り返る。
先月公表された高校教科書検定でも、慰安婦について「日本軍に連行」「強いられた」といった自虐史観を強めた表現がみられたほか、南京事件の犠牲者数については「誇大」とされる30万人説が当たり前のように掲載され、文部科学省の検定を合格している。
領土に関する記述も、自国より中韓の主張を強調する教科書が目立ち、中韓への過度な配慮がみられる。
文科省は「学説状況などを考慮して検定意見を付けている」と説明するが、ある元文科官僚は「外交間題に発展しかねない案件については、よほどのことがない限り検定意見は付けない。近隣諸国条項の呪縛だ」と打ち明けた。(河合龍一) |
近隣諸国条項
文部科学省告示の教科書検定基準にある「近隣のアジア諸国との間の近現代の歴史的事象の扱いに国際理解と国際協調の見地から必要な配慮がされていること」との条項。昭和57年の高校教科書検定で、当時の文部省が、中国華北への日本の「侵略」との記述が「進出」に書き換えられたとする誤報に基づき、当時の宮沢喜一官房長官が「教科書記述を是正する」との談話を発表し、検定基準に盛り込まれた。 |
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