情報源:産経新聞24年(2012年)5月3日木曜日
主張
憲法施行65年 自力で国の立て直し図れ 今のままでは尖閣守れない
憲法改正の動きが広がりを見せつつある。自民党が憲法改正草案をまとめたのに加え、みんなの党やたちあがれ日本も改正の考え方や大綱案を発表した。
占領下で日本無力化を目的に米国から強制された格好の現行憲法では、もはや日本が立ちゆかなくなるとの危機感が共有されてきたためだ、
憲法施行65年の今日、はっきりしたことがある。それは自国の安全保障を他人任せにしている憲法体系の矛盾であり、欠陥だ。
自衛権の制限は問題だ
本紙は新たな憲法が不可欠との認識に立ち、「国民の憲法」起草委員会を発足させ、来年5月までに新憲法の礎となる要綱を策定する作業を進めている。その要諦は、日本人自らの力で国家を機能させ、危難を克服できるように日本を根本的に立て直すことだ。
本紙とFNNの世論調査で、「憲法改正が必要」は58%に達した。国民も国家の不備を是正すべ
きだとしている。従来のような先送りは許されない。
国の守りが危殆(きたい)に灘していることを指摘したい。2日も中国の漁業監視船が尖閣諸島周辺の日本の接続水域を航行した。問題は、日本の領海を侵犯しても、現行法では海上保安庁が退去を求めることしかできないことだ。
仮に中国側が漁民を装った海上民兵を尖閣諸島に上陸させ、占拠しても、現行法の解釈では、自衛隊は領土が侵されたとして対処することはできない。代わりに警察が出動し、入管難民法違反などで摘発するしかないのだ。これは政府が自衛権の発動に厳しい枠をはめているためだ。
「わが国に対する急迫不正の侵害」など、自衛権発動には3要件がある。それも「他国」による「計画的、組織的」な「武力攻繋」に限定している。漁民に偽装した海上民兵の行動はこれに当たらないという解釈だ。これが尖閣防衛を阻害しているとは何と奇妙なことか。
戦争放棄や戦力の不保持、交戦権の否定などをうたった9条の下で、政府は固有の権利である自衛権を極力、行使しないように躍起だったためである。今日まで自衛隊に国際法上の軍隊としての機能と権限を与えていないことも、同じ文脈だ。
領空侵犯の恐れがある外国機に対する航空自衛隊の緊急発進(クランブル)回数は、昨年度425回で過去20年で最も多かった。これは、空からの情報収集活動を活発化させている中国機への対処が、前年度より60回多い156回に急増したためだ。
空自は対領空侵犯措置として、外国機に対して無線での警告、警告射撃など段階を踏んで退去や強制着陸を命じる。だが、許されているのはそこまでだ。
審査会は改正の論議を
空自の措置は警察行動と位置付けられ領空を守る任務が与えられていない。相手はそうしたことを知悉(ちしつ)している。日本の不備は「力の空白」を生んでいるのだ。
世論調査で、7割の人が憲法に自衛隊の位置付けを明文化すべきだと答えたことは当然である。注目したいのは、米国内でも日本の憲法改正や集団的自衛権の行使容認などが、日米同盟の強化に資するという見解が広がっていることだ。
日本が国の守りを自力で行わなければ、日米共同防衛の実は上がらない。尖閣への侵攻についても自衛隊がまず対処すべきだ。そうでなければ米軍が自衛隊とともに行動することにはならないだろう。
北朝鮮の弾道ミサイルから国民を守るため、沖縄本島や石垣島などにも自衛官や装備を展開した迎撃態勢について、一部に反対があった。国民の間にある「軍事アレルギー」の克服も課題だ。
このほか、現行憲法には非常時対処の規定が著しく不備であることや、日本の歴史や文化・伝統がみられないことなど、問題は山積している。
昨年10月に始動した衆参両院の憲法審査会が、有識者の意見聴取や選挙年齢などの議論にとどまり、本格的な改正論議に入っていないのは残念だ。憲法改正への具体的な方針を決めていない民主党の消極姿勢が大きな原因だ。
これまでは「米国任せ」で安住していたことも否定できない。日本人が誇りを持てる国づくりをど
う実現できるか。問われているのは日本国民自身である。
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