韓国の言い分 

緯度経度 産経新聞H24.9.29  ソウル 黒田勝弘

内外で謝罪要求の韓国的歴史観

韓国の大統領選は与野党、無所属の有力3候補が出そろい本格的な選挙戦に突入した。選挙となると米国をはじめどこでも見られる風景ではあるが、韓国の場合、相手の弱点をあげつらい足を引っ張る"ネガティブ・キャンペーン"が得意だ。

無党派の圧倒的支持で華々しく出馬宣言し、知性とクリーンが看板の安哲(アンチョルス)秀候補も早速、妻のマンション売買にからむ脱税疑惑などをマスコミに書き立てられ点数を下げている。

一方、与党セヌリ党の朴橦恵(パククネ)候補に対してはもっぱら父・朴正煕(チョンヒ)元大統領の"罪"が追及の対象になり、先ごろあらためて「謝罪と反省」の記者会見となった(24日)。

「親が悪いから子も悪い」といわんばかりの、まるで「親の因果が子に報い」的な古風な風景だが、こうした追及に最も熱心なのが「民主化勢力」とか「進歩勢力」といわれる野党陣営だから面白い。

現在の韓国発展の基礎を築いた朴正煕政権(1961~79年)には、クーデターで政権を握ったという出自の評価を含め当然、功過両面がある。経済発展と近代化そして北朝鮮を追い越した国力増大などは「功」で、野党弾圧や言論統制など自由と民主主義の制限は「過」である。

朴政権については「3万人が不幸だったが3干万人が幸せになった時代」という評が妥当なところだろう。したがってどの調査でも朴正煕は歴代大統領の中で最も人気が高い。

しかし野党勢力は「過」をことさら取り上げ、娘の朴橦恵候補を攻撃する。彼女の政治家としての人気の背景には父の「功」、つまり「親の七光」もあるので仕方ない面はあるが…。

そこで彼女も「過去の評価は歴史にまかせよう」といいつつも、「不幸な出来事で被害を受けた人たちには申し訳なく思う。再びそのようなことがないようにしたい」などとそれなりに謝罪と反省を表明してきた。しかし被害者など野党陣営やマスコミ世論にはなかなか承知してもらえない。

執拗な謝罪要求に彼女もつい「もう謝ったではないか」と不満をあらわにしたこともあったが、結局は記者会見で政治的犠牲者らに対する「公式謝罪」となった。選挙戦のさなか票を考え頭を下げざるをえなかったのだ。

それでも被害者や野党陣営など反対勢力は「真正性(誠の心かどうか)が疑わしい」「今後の態度と実践が問題」などといって納得した様子はない。これからテレビ討論など候補者に対する"検証"合戦が激しくなる。朴候補への「謝罪と反省」要求は繰り返されるに違いない。

韓国におけるこうした過去の歴史にかかわる謝罪と反省の論の風景は、日韓間で今なお続く歴史摩擦を連想させる。日本は「何回、謝罪すればすむのか」と不満で、韓国は「心がこもっていない。今後の姿勢が問題などといって要求を蒸し返す。結局、謝罪や反省が成立するのは、それを述べる側ではなく受け入れる側の判断なのだ。

受け入れる姿勢がなければ、どんな言葉で何回述べようと成立しない。大統領選でも日韓関係でも、受け入れ側には「受け入れない方がいい」「それが自らにプラスだ」との計算がある。