教育 中高生のための 国民の憲法講座 第7講 西修先生
〈にし・おさむ)早稲田大学大学院博士課程修了。政治学博士、法学博士。現在、駒沢大学名誉教授。専攻は憲法学、比較憲法学。産経新聞「国民の憲法」起草委員。著書に『図説日本国憲法の誕生』(河出書房新社)『現代世界の憲法動向』(成文堂)『憲法改正の論点』(文春新書、近刊)など著書多数。73歳。
日本国憲法に規定なき「条項」
第5講で、日本国憲法は、いまや世界的に古い部類の憲法に入っていると言いました。それでは、新しく制定された憲法にどういう傾向があるのでしょうか。
そのころ、国際社会でも環境保護が憲法事項だという考え方はありませんでした。各国で環境を憲法事項と考えられるようになったのは、この40年ほどのあいだです。政党も、現代の政治過程において不可欠な存在です。各国の憲法は、政党設立の自由を保障するとともに、政党活動の透明性や民主主義の順守を求める規定を設けています。
世界の半分が新憲法
私は、近年における世界の憲法動向を知るために、1990年以降に制定された全憲法を収集し、分析しました。なんとこの22年間(1990年3月のナミビア憲法から2012年12月のエジプト憲法まで)に100カ国でまったく新しい憲法が制定されています。現存する国家の半分以上で新憲法が制定されているのです。
これらの憲法をみると、いちばん多くの国の憲法で規定されているのが、国家緊急事態対処条項で、すべての国の憲法に取り入れられています。つぎに多いのが平和条項で、98カ国の憲法に導入されています。平和条項と国家緊急事態対処条項をセットで定めるのが、共通の現象です。
環境の権利・保護や政党に関する規定は、90カ国の憲法で設けられています。環境破壊は、生態系に重大な影響を及ぼします。日本国憲法が制定されたとき、日本は戦後の復興に向けてすべての力を出し尽くさなければなりませんでした。
そのころ、国際社会でも環境保が憲法事項だという考え方はありませんでした。各国で環境を憲法事項と考えられるようになったのは、この40年ほどのあいだです。政党も、現代の政治過程において不可欠な存在です。各国の憲法は政党設立の自由を保証するとよもに、政党活動の透明性や民主主義の順守をを求める規定を設けています。
家族の保護は85カ国で
注目されるのは、家族の保護に関する条項です。日本国憲法は、第24条で、家族に関する法律は「個人の尊厳」と「両性の本質的平等」に立脚して定めることが強調されています。家族は、国家・社会との関係でどのように位置づけられるのか、明記されていません。
多くの国の憲法には、家族を国家・社会の基礎的単位として位置づけ、保護されることが定められています。産経新聞「国民の憲法」でも家族を保護、尊重する規定を置きましたが、私たちは「基礎的単位」としての「家族のありよう」を考えてみる必要があると思います。
インドの初代首相、ジャワハラル・ネルーは「憲法を抹殺したいのであれば、憲法を本当に神聖で不可侵のものにすればよい。憲法が更新されず、停止状態にあるとすれば、その憲法は、それがよいからでなく、その憲法は過去のものになってしまったからである。生きるべき憲法は、成長しなければならない…柔軟でなければならない…変化し得るものでなければならない」と述べています。
黒板に掲けた項目は、平和条項を除いて、日本国憲法に規定がありません。憲法を生かし、成長、発展させていくために、新しい、そして広い視野から日本国憲法を見直していく必要があると思います
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