未来の国産航空機

夢の超音速、復活に挑む「電動有人」も国内初飛行


国産初のジェット旅客機MRJ(三菱リージョナルジェット)が試験飛行に成功し、新時代の扉を開けた日本の航空機。宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、その先にある未来の機体について研究を進めている。超音速旅客機や電動航空機など多彩な翼が大空を舞う日が来るかもしれない。(草下健夫)

■15年後にも実証飛行

超音速機として名高いコンコルドは英国とフランスが共同開発し、1969年に初飛行した。夢の旅客機として脚光を浴びたが、激しい騒音や燃費の悪さから2003年に退役。超音速旅客機は世界の空から姿を消した。JAXAはその復活をかけて研究を続けている。最大の懸案である騒音の正体は、機体の先端や後端で空気が圧縮されて起きる爆発のような衝撃音。研究チームは機首をカモノハシのくちはしに似た形にするなどし、これを大幅に減らす設計を考案した。

今年7月の無人機によるマッハ1・39の飛行実験で、機体の先端と後端の両方で衝撃音を低減させることに世界で初めて成功した。50人乗りの機体に適用すると衝撃音はコンコルドの約4分の1に減り、遠くの雷鳴が聞こえる程度に緩和されるという。

マッハ1・6の旅客機が実現すれば、日本からシンガポールなどに日帰りで出張できるようになる。文部科学省は30年ごろの実証飛行を目指す。開発費は2兆円規模とされ、国際協力が必要だ。

コンコルドの失敗を背景に、旅客機の開発は高速飛行ではなく大量輸送に重点が置かれるようになった。だがJAXAの吉田憲司プロジェクトマネージャは「高速移動の選択肢ができれば、大きな経済済効果を生むはずだ」と意義を強調する。

■大出力電池で成功

地球温暖化を背景に、化石燃料を使わない電動航空機の開発も進んでいる。JAXAは今年2月、17分間の本格的な有人飛行に国内で初めて成功した。燃料の石油を電気に、エンジンをモーターに置き換えることで温室効果ガスの排出抑制につなげる。従来の電池では十分な距離を飛行できなかったが、軽量で大出力のリチウムイオン電池の登場で可能性が広がった。

燃料の配管が電線になるため整備を簡素化でき、油圧やエンジン温度の確認が不要になるなどパイロットの負担も減る。西沢啓主任研究員は「電池などをさらに軽量化することが課題。自動車産業など異分野の技術を積極的に活用する必要がある」と話す。

災害時に威力を発揮しそうなのが72時間の滞空撮影が可能な無人航空機だ。人工衛星は上空を通過するときにしか撮影できないが、無人航空機を併用すれば被災状況を長間監視できる。日本には山地や大都市など滑走路の建設が困難な地域が多い上、救助活動に使うヘリコプターは時速200キロ程度でしか飛べない。そこで角度を変えられる4枚の主翼とプロペラがついた垂直離着陸機や、速度が2倍の高速ヘリの開発を検討している。ドクターヘリの活動範囲拡大などに役立つと期待される。

■設備とコストが課題

開発の壁は試験設備だ。飛行時の空気の流れを検証する風洞設備は不可欠だが、JAXAの施設は約半世紀前のもので故障が頻発しており、大規模な改修中。日本には実証用エンジンを備えた試験設備もない。次世代機の夢は膨らむが、開発には巨額の投資も必要で、費用対効果を冷静に見極める視点も求められる。