日米関係は真の友人足りうるか

平成19年8月29日・水曜日  
産経新聞 主張  軍事情報漏洩 
機密保全で信頼世界一を
  機密情報が詰ったイージス艦の情報漏洩事件で、神奈川県警と海上自衛隊警務隊が体4月の合同捜査発表以来、4度目の家宅捜索を行った。今回はイージス艦情報流出の重大原因になったとされる一等海尉ら幹部の自宅や勤務先、1尉が勤務した護衛艦「しまかぜ」などが対草となった。海自幹部宅のほか護衛艦が捜索を
受けるのは異例という。

 事件の発端となった2等海曹などが持ち出しいたイージス艦構報は、これまでのところ中国たど第三国に流出した形跡はないもようだが、日米同盟の信頼関係を崩しかねない問題だけに、さらに徹底して情報漏洩ルートと原因の解明に努めてほしい。

 漆間厳警察庁長官(当時)は4月、「日本の安全保障上の重要な情報にかかわる重大案だ」と述べ、徹底捜査の方針を示していた。これまでの捜査はその方針に沿ったものといえる。

 日米はイージス艦を核とするミサイル防衛の共同研究を進めるなど軍事機密共有化を伴う協力を強めている.その機密が漏れれば、日米の安全保障に重大な影響をあたえるだけでなく、協力計画そのものが進まなくなる。

 そのため、5月1日の日米安全保障協議委員会(2プラス2)では米側から日本側の情報保全に重大な懸念が示され、それが8月10日の「軍事情報に関する一般保全協定(GSOMIA)」の締結につながった。秘密保全の対象を大幅に広げたものだ。

 一方、航空自衛傾が次期主力戦闘機(FX)の有力候補としてきたステルス最新鋭ステルス戦闘機F22Aラブター13は、米議会が先月、輸出禁止条項を継続することを決めたことで、日本の阜期導入は困難となった。

 イージス艦情報漏洩事件が影響したとされる。小池百合子前防衛相は「だれも責任を取っていない」として、先の組閣前に辞任を表明した。次官人事をめぐる騒動もあったが、確かに大臣辞任に値する事件であった。

 防衛省は来年、「情報保全隊本部を設置し、情報保全に努める計画という。詳細を見守りたい。ただ、なにより大事なのは、24万人自衛官の「国を守る」という意識と誇りだろう。

 日本の防衛省・自衛隊の機密保全カは、その規律の高さとともに世界一といわれるようになってほしい。

 論議呼ぶブッシュ流歴史の教訓(産経新聞平成19年8月29日)
 イラク演説、対日戦勝やベトナム戦争と対比
【ワシントン有元隆志】ブッシュ米大統領が対日戦勝やベトナム戦争を引き合いに、イラクからの米軍撤退論に反論した演説が論議を呼んでいる。ベトナム撤退後に起きた「人々の悲劇」を紹介するなど、イラク戦争とベトナム戦争を正面から比較したためだ。自党の共和党内からも撤退論が出るなど四囲の状況が厳しくなる中、「ブッシュ流歴史の教訓」が世論にどう評価されるか、今後の展開が注目される。


 
演説は、米軍増派に関する9月中旬の報告に先んじて行うひとつで、22日、中西部ミズーリ州カンザスシティーで退役軍人らを前に行われた。

 大統領は「今日の躍動的で希望にあふれたアジアは米国のプレゼンスと忍耐なしには不可能だった」と、対日戦争と朝鮮戦争の意義を説明した。

 日本については、過去と現在の対比を強調するあまり、「神道は狂信的過ぎ、しかも天皇に根差している」とまで述ぺ、日本政府内からも「議論が乱暴」(政府関係者)との指摘が出ている。ただ、.大統領はこれまでもかつての敵国の日本が今では米国の同盟国となった話を繰り返してきており、日本を例に出すこと自体は目新しくはない。

 大統領はさらに、朝鮮戦争での米軍の役割を強調したうえで、ベトナム戦争に言い及んでいる。「韓国や日本に触れ、ベトナムに言及しないわけにいかない」と、演説の責任者である広報戦略担当のガレスピー大統領顧問は27日付の米紙ワシントン・ポストに語った。

 だが、力点はむしろ、「ベトナム後」の部分にあったといっていい。ベトナム介入や撤退の議論はなお続いているとし、「米国の撤退の代償が何百万もの無実の人々によって支払われ、彼らの苦痛が『ボートピープル』『再教育キャンプ』『キリイング・フィールド』といった新しい言葉をわれわれの語彙に付け加えたとた」と述べた。

 大統領は従来、イラクでの選挙、国民投票実施などを根拠に、ベトナム戦争と「似ていると思わない」と否定してきた。開戦から4年半近くたって、ベトナム戦争(8年5ヵ月)のように「泥沼化」していると、ベトナムを政権批判こ使ってきたのは民主党だった。

 今回、ホワイトハウスが演説の参考にしたと見られるのが、ピーター・ロッドマン前国防次官補と、英ジャーナリスト、ウィリアム・ショークロス氏が6月7日付の米紙、ニューヨーク・タイムズに寄稿した一文だ。ニクソン米政権の外交政策については正反対の見解を持ちながらイラクでの敗北はベトナムでのそれより「重大
な結果を招くという点では一致する」としており、演説もそこを引用している。米歴史家のロバート・ダレック氏は米紙ロサンゼルス・タイムズで、演説のベトナム戦争に絡むくだりなどを、「歴史の歪曲だ」と批判、べトナムからも反発が起きた。

 これに対し、米有力シンクタンク、外交評議会のマックス・ブート上級研究員は米ウォールストリート・ジヤーナル紙上で、大統領による比較に賛意を示しつつ、撤退が招く危険性をさらに説明する必要があるとした。
ホワイトハウスは批判も含め演説が注目されることに「満足している(ポスト紙)という。今後、どこまで共感が広がるか不透明ながら、二つの戦争をめぐる議論が活発になったという意味では狙い通りになったことは間違いない。