今こそ必要な首相の覚悟 参院議長西岡武夫
いま、私の目の前には子供たちの顔しか見えない。子供たちのために何ができるのだろう。ただそれだけである。私は9月24日付の新聞のような重要なニュースが凝縮された紙面をかつて読んだことがない。
ひとつにはアインシュタインの相対性理論を覆す実験結果が示された。光より速い「ニュートリノ」の実験結果公表。これが事実であれば物理学の世界が一変する。一方、欧州経済危機。ギリシャ危機が決定的になりヨーロッパの経済全体に大変な混乱をもたらしている。
中東パレスチナの国連加盟申請提出、これも極めて大きな政治的な出来事である。また、大統領選挙に出馬表明したロシアのプーチン首相率いる「統一ロシア」党大会開幕。日本においては野田佳彦首相の国連演説。文化面では、かつて小澤征爾氏を輩出した若手指揮者の登竜門であるコンクールでの垣内悠希氏の優勝。
これらの出来事が一度に一日の新聞紙面に掲載されることは極めて稀有であり、すなわち世界全体が大きな変化の動きを見せ始めていることを意味する。福島第1原発で起こった出来事は、現政権が考えているような生易しいものでない。政府は、次の世代に負担を残さないなどと称して短期国債の発行を決めたが、大きな経済の流れの中で、そんなことはありようもないことである。
今、税の問題で論ずべきは、年金給付の財源をいかに確保するか。そして基礎的財政収支をとったとしても、なおそこに残る付加的年金をどう確保するか。さらに年金基金に余裕を持たせるための手当てをどこまでできるのか。これがすべてであって、このことのみに尽きる。
従って、東日本大震災による甚大な被害、福島第T原発事故を沈静化させるための途方もない資金は全く別の問題であって、同じように論ずべき問題ではない。一方で、われわれは日本のこれからの税制全体の体系を、明確にしなければならない時に来ている。私は、まだ日本は、外国からの借り入れを経ずにやっていくことができると考える。ゆえに、特段の年金関係以外の国債の発行を必要とするとは思っていない。
今後の日本経済のあり方を考えるとき、今回のような大災害とそれに伴う原発の危機に対し、どのように対応するか。かなりの財政支出を伴う大掛かりな対応が当然求められるが、日本としてそれだけの対応をする義務と責任が国際的にもある。私は、建設国債・特例債による大胆な財政出動が必要だと考える。
国難にあたりて、私は、首相の指導力というものがいかに求められ、必要であるかということを今更のように痛感している。わが国はこれから多様な選択肢の中から決断していかなければならない。そのために何をすべきかを時の首相は自ぢ決定する責任がある。
首相の孤独な映断を民間の有識者に責任分担させるべきでない。私は先の国家戦略会議の閣議決定の取り消しを求める。責任の分散化は許されないというのが私の考えである。
首相のトップリーダーとしての明快な姿勢がある限り、日本の未来はいかなる局面においても閉ざされることはない。(にしおかたけお)=題字も
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