一面から続く
歴史の自縛
  ・・戦後60年・・教育基本法も”米国製”
 「国を愛する心」と「国を大切にする心」のどちらが教育基本法にふさわしいのか−。自民、公明の両党は、「教育の憲法」といわれる教育基本法改正に関する検討会を設けて協議を重ねているが、「愛国心」をどのような表現で盛り込むかをめぐって決着が付かず、今国会でも改正案提出は見送られた。 中央教育審議会が平成十五年三月に「国や郷土を愛する心」を「教育基本法で新たに規定すべき理念」と答申してから、すでに二年半。教育基本法改正案は国会提出の見通しさえたっていない。

 「国家主義的、全体主義的、戦前への復古主義的な考えを盛り込むことは断固反対だ」 公明党代表の神崎武法は今年一月、こう強調した。神崎は「教育基本法を改正したからといって、教育現場の問題が解決するものではない」とも言い切った。 実は、教育基本法改正をめ
ぐっては、公明党だけでなく、文部科学省の幹部や、内閣法制局からも「『愛国心』の盛り込みは内心の自由を損ねる」 「自民案は教育基本法になじまない」といった反対・慎重論が出ている。 就任当初は、目の前の利益よりも将来につながる教育を優先する「米百俵の精神」を掲げ、教育改革に熱意を示した首相の小泉純一郎は今、教育基本法改正にほとんど関心を示していない。 現行の「どこの国の基本法なのか全く分からない」 (自民党幹事長代理の安倍普三)という条文を改め、「国を愛する心」を盛ることがなぜ警戒され、抵抗を受けるのか。
 ここにもGHQの占領政策の「後遺症」が影を落としている。
   □ ロ ロ
 GHQは教育政策を特に重視し、昭和二十一年二月に「教科書検閲の基準」を発令。次の五点を検閲対象とし
て挙げ、徹底的に排除した。
                               
 
@天皇に関する用語 現人神、上御一人、天津日嗣、大君など
 
A国家的拡張に関する用語
   八紘一宇(はつこういちう)、皇国の道など
 
B愛国心につながる用語
   国体、国家、国民的、わが国など

 
C日本国の神話の起源や、楠木正成のような英雄および道義的人物としての皇族
       
 
D神道や祭祀、神社に関する言及など

 日露戦争の日本海海戦で、ロシアのバルチック艦隊を破った東郷平八郎元帥が、平成四年に”復活”するまで、ながらく小学校教科書から消えていたのもこの基準が大きく影響したといえるが、「愛国心」もまた大きな被害を受けた。

 麗澤大客員教授(国際政治文化論)の西鋭夫によると、GHQの検閲で教科書に記載されていた「愛国心」は赤ペンで消され、黒鉛筆で「国を思うこと」に書き換えられた。 GHQの検閲基準と、教育基本法に対する公明党の主張には、奇妙に符合する部分がある。

 GHQは教育基本法案の原案にあった「伝統の尊重」「宗教的情操の涵養」などを削除・修正したが、こうした部分は現在の基本法論議で”復活”が議論されている焦点でもある。 西は、「教育基本法は新憲法の理想を学校教育で補強するために、GHQの指導のもとつくられた。憲法と同じように米国製だ。このことを忘れてはならない。日本人は米国が与える民主主義という甘い蜜の中に、『日本弱体化』という毒が入っていることを知らなかった」と強調する。
      (敬称略)