情報源:産経新聞:H23('11)3.25

被災地の皆さんへ 映画監督 アンジェイ・ワイダさん

自然の力受け入れてきた民     悲観しない日本人を尊敬

ポーランドが生んだ世界的映画監督、アンジェイ・ワイダさん(85)は、日本をこよなく愛する一人だ。日本美術の強い影響を受けたと自ら認める。「苦難の中でも楽観を失わない。それが日本人だ」。東日本大震災の被害に立ち向かう日本人を励ます一文を寄せた。

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日本の友人たちへ。
このたびの苦難の時に当たって、心の底からご同情申し上げます。深く悲しみ悲観しないをともにすると同時に、称賛の思いも強くしています。恐るべき大災害に皆さんが立ち向かう姿をみると、常に日本人に対して抱き続けてきた尊敬の念を新たにします。その姿は、世界中が見習うべき模範です。

ポーランドのテレビに映し出される大地震と津波の恐るべき映像。美しい国に途方もない災いが降りかかっています。それを見て、問わずにはいられません。「大自然が与えるこのような残酷非道に対し、人はどう応えたらいいのか」私はこう答えるのみです。「こうした経験を積み重ねて、日本人は強くなった。

理解を超えた自然の力は、民族の運命であり、民族の生活の一部だという事実を、何世紀にもわたり日本人は受け入れてきた。今度のような悲劇や苦難を乗り越えて日本民族は生き続け、国を再建していくでしよう」

日本の友人たちよ。
あなた方の国民性の素晴らしい点は全て、ある事実を常に意識していることとつながっています。すなわち、人はいつ何時、危機に直面して自己の生き方を見直さざるをえなくなるか分からない、という事実です。


それにもかかわらず、日本人が悲観主義に陥らないのは、驚くべきことであり、また素晴らしいことです。悲観どころか、日本の芸術には生きることへの喜びと楽観があふれています。日本の芸術は人の本質を見事に描き、力強く、様式においても完壁です。

日本は私にとって大切な国です。日本での仕事や日本への旅で出会い、個人的に知遇を得た多くの人々。ポーランドの古都クラクフに日本美術・技術センターを建設するのに協力しあった仲間たち。天皇、皇后両陛下に同行してクラクフを訪れた皆さんは、日本とその文化が、ポーランドでいかに尊敬の念をもって見られているか、知っているに違いありません。

2002年7月の、あの忘れられないご訪問は、私たちにとって記念すべき出来事であり、以来、毎年、私たちの日本美術・技術センターでは記念行事を行ってきました。

日本の皆さんへ。
私はあなたたちに思いをはせています。この悪夢が早く終わって、繰り返されないよう、心から願っています。この至難の時を、力強く、決意をもって乗り越えられんことを。ワルシャワより、アンジェイ・ワイダ

<アンジェイ・ワイダ>1926年、ポーランド・スバウキ出身。54年、「世代」で監督デビュー。「地下水道」「灰とダイヤモンド」などでポーランドを代表する映画監督に。最新作に第二次大戦中の虐殺事件を描いた「カティンの森」(2007年)。1996年、第8回高松宮殿下記念世界文化賞(演劇・映像部門)受賞。