野口裕之の安全保障読本 北半島有事では「北朝鮮が内部崩壊する」という分析がある。ところが同時に、日本も「自滅」「日米同盟崩壊」に陥る懸念が排除できない。この不気味な兆候の説明には、北朝鮮が日本に仕掛けてくる"刺客"に触れる必要がある。 北朝鮮は@全入民の武装化A全国土の要塞化B全軍の幹部化片C全軍の近代化一という「4大軍事路線」を、40年以上前から継続。軍がすべてに優先する「先軍政治」の結果、総兵力1広10万人、予備役470万人を数え、4人に1人が軍人である超軍国主義国家へと膨張した。 特に、陸上自衛隊の7倍の陸兵、旧式ながら多過ぎて比較のしようがない戦車や火砲を保有している。従って、兵力で、日本は北朝鮮に到底及ばない。しかし、大規模正規兵力による日本上陸は不可能だ。上陸部隊を輸送する艦隊がなく、部隊を援護する航空機・艦艇も旧世代型が圧倒的多数。航空優勢も制海権もとれないから、断念するのが軍事的合理性というものだ。 だが、政治的合理性が優先する北朝鮮軍の場合、襲来可能性はゼロではない。ただ、兵力が劣勢でも、装備の質や「C41SR(指揮・統制・通信・コンピューター・情報・監視・偵察を一体化したシステム)」の運用に勝る自衛隊がほぽ迎撃できる。それ以前に、日米安全保障条約により日本防衛の義務が生じると期待される米軍などに阻まれる可能性もある。 では、対日武力行使成功が「絵空事か」というと、そうでもない。半島有事に米国が軍事介入するケースでは、日本の対米軍事後方支援阻止を狙い、北朝鮮は日本の世論分断に向け威嚇・テロを謀るとの分析もあるからだ。その場合、最強の"刺客"となるのが特殊部隊や弾道ミサイルだ。北朝鮮は情報収集からテロ・破壊、ゲリラ戦までを担う「第8特殊軍団」を擁す。その数、実に10万〜12万人。韓国には一時に1万8000人を潜入させられる、世界一大規模の特殊部隊である。 朝鮮労働党偵察局にも特殊工作員から成る8個大隊が存在。韓国政界は、工作員による買収などで「親北外交」に誘導されたと、取材した北朝鮮元工作員の安明進氏は語っている。特殊部隊や工作員はレーダーでは捕捉しにくい小型潜水艦、工作船などで上陸。在日支援組織と連動し橋梁、空港、港湾、原子力発電所などを爆破、経済マヒのほか要人暗殺も視野に入れている。化学剤・細菌散布による大量殺戮もあり得る。北朝鮮は世界3位の化学兵器保有国。(サリンなど化学剤を年14トン製造する8工場を所有し、最低25Oトンを6カ所に備蓄している。天然痘や細菌も生産。特殊部隊員や工作員が、死を覚悟で散布}すればミサイルは必要ない。一方で、日本を射程に収める弾道ミサイル「ノドン」を20-O基保有。ミサイルは核弾頭の小型化に成功しておらず実戦段階ではないとの見方もあるが、通常弾頭でも殺傷力はあるし、化学・細菌弾頭は開発済みだ。、 北朝鮮は閣僚暗殺や民航機爆破、ミサイルや核の開発・実験を行い、政権延命を図ってきた。特殊部隊や弾道ミサイルなど隠密・心理的武力の特性を極めて深く理解、その政治的活用方法は"模範的"だと言わざるを得ない。特に、日本のように安全保障面で思考停止を続ける「商人国家」はパニックを起こしゃすく、恫喝効果絶大の標的。世論分断は難しくない。「地下鉄や繁華街を爆弾や化学剤で攻撃するーと脅せば、北朝鮮は日本がおびえ、米軍の後方支援に踏み切れないとみている。カネもうけに執着し、愛国心と国家主権を守る気概に欠ける国民は脅しやすく、かくのごとくなめられる」 安氏の忠告に、返す言葉もない。安氏はさらに「リベラル派や左翼、メディアも世論分断を扇動する」と見抜いている。「自衛隊は強いのか」「北朝鮮と戦って勝てるのか」祖国防衛の足を引っ張る国艮がいる限り、こうした質問には「強いが、負ける」と私は答えている。 「後方支援拒絶」後に「日米同盟崩壊」は起きるのかー。それは軍事(日米)同盟の本義を、日本が実行するかによる。日本防衛に、米軍の若者の血だけが流れれぱ、同盟崩壊は一段と現実味を帯びてくる。 月1回掲載します。情報源:産経新聞h19.6.28 野口裕之の安全保障読本 |