「強盗の論理」と戦う"良薬"
中国人が死んでも認めない 捏造だらけの中国史
黄文雄著(産経新聞出版・1365円)
評・藤岡信勝 (拓殖大学客員教授)
強盗が狙いをつけた家のあるじに「その家はオレ様のものを盗んだのだ」と糾弾する。国連総会で尖閣をめぐる中国代表の「強盗の齢理」に接して、さすがにお人好しの日本人も目覚めつつある。
とはいえ、戦後半世紀以上にわたる中国美化の洗脳が解けていない人も多い。本書は少しわかりかけたが、まだ幻想から抜けきれないといった日本人にとって最良の薬である。
中国古代の理想化された君主として名高い尭・舜・禹などは、戦国時代から前漢にかけて儒者たちが創作した伝説に過ぎない。「中国五千年の歴史」はただの建前で、王朝ごとに歴史は断絶する。秦帝国以後の中国は3分の2が統一期で3分のーが分裂期である(貝塚茂樹説)などというが、例えは唐帝国は安史の乱以後、地方軍閥が割拠し、天下大乱・阿鼻叫喚の地獄だった。治世と乱世が繰り返すという「一治一乱」史観は、史実に照らせば空虚な幻想に過ぎない。
近現代史の捏造もすさまじい。辛亥革命は爆発事故から偶発的に起こった革命で、孫文は外国にいて知らなかった。彼は革命の疫病神で、国父に持ち上げられたのは1940年代からである。東アジア共産化の原点は孫文がコミンテルンのカネを求めたことにある。
評者は今夏、壱岐の博物館に孫文の支援者だった梅屋圧吉の妻・トクの巨大な銅像が置かれているのを見て仰天した。贈り主は何と中国社会科学院。トクの生地・壱岐に銅像を建てるところまで、中国共産党の対日工作の手が伸ぴているのである。
日本悪玉史観の決めダマの一つ「対華二十一カ条要求」についても通念は誤りである。人民解放軍は強盗・匪賊であり、抗日戦争で何ら役割を果たしていない。南京事件はもちろん事実無根のデッチ上げ。共産中国の歴史の捏造は枚挙にいとまがない。
ついに著者は「逆観法」なる方法論を編み出す。中国が「正しい歴史認識」として押しつける言説は大抵その逆が正しい。今後私たちは、その方法を「歴史の鑑」として、中国の宣伝戦と戦わなければなるまい。
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