村山談話に乗っ取られる日本    高崎経済大学教授  八木秀次
統幕学校の講座に介入
 田母神俊雄前航空幕僚長の論文問題は、同氏が校長時代に設置した統合幕僚学校の
「歴史観・国家観」講座の講師人選の見直しに発展している。この講座は自衛隊の幹部研修機関である同校の課外講座だが、講師の人選が保守派に偏っていると『しんぶん赤旗』などが執拗に問題にしていた。

 これを受け、
浜田靖一防衛相は11月21日、「講師の選定が適切だったと判断するのはなかなか難しい。講座の見直しを検討したい」と述べ、12月16日、斎藤隆統合幕僚長も同校を視察した参議院外交防衛委員会のメンバーに対して「一部バランスに欠けている。講師の選定、内容をどうするかを検討しなければいけない」と発言している。

 統幕学校の講師の人選ばかりではない。自衛隊の一般隊員に対する研修での外部講師の人選、その講義内容、防衛大学校での講義内容まで「村山談話」に沿っているかの点検作業が行われている。
追及に熱心な左翼政党は組織を挙げて自衛隊関係のあらゆる雑誌・新聞の執筆者の人選、執筆内容の洗い直しを行っているという。 防衛省・自衛隊は「村山談話」に乗っ取られようとしているのであるが、果たしてこれで自衛隊員の士気は保たれるだろうか。

 
事態は恐らくこれで終わらない。今後はありとあらゆる政府関係の機関や個人の見解が「村山談話」に沿っているかが問い直されるはずだ。

公教育への影響も心配

 私が懸念するのは公教育にこの余波が及ぶことだ。2年前に教育基本法が改正され、「教育の目標」として「伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた
「我が国と郷土を愛する…態度を養うこと」が新たに規定された。これに伴い、昨年3月、不十分ではあるが、学習指導要領も改定された。

 しかし、「村山談話」が政府機関を縛るということになれば、公教育における歴史教育は
「わが国は、遠くない過去の一時期、国策を誤り、戦争への道を歩んで国民を存亡の危機に陥れ、植民地支配と侵略によって、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えました」と教えなければならなくなる。当然、教科書検定にも反映されるだろう。これではせっかくの教育基本法の規定も画に描いた餅に週ぎなくなる。「村山談話」が教育基本法に優位し、理念を形骸化させるという構図である。

 この類推でいけば、「村山談話」が維持される限り、近い将来」憲法が改正され、自衛隊が憲法上に正当に位置付けられたとしても、自衛隊は「村山談話」に沿った存在でしかない。「普通の国」の軍隊とは程遠いものにしかならないだろう。「村山談話」が憲法改正を相対化させるという構図である。

 「村山談話」はその出自に問題があるにせよ、とにもかくにも政府見解である。そのためそれを
「錦の御旗」にして、特定の勢力はぐいぐいと政府関係者や関係機関を追い立てていく。個人的には「村山談話」に問題があると分かっていても政府見解であるから、表向き反対できない。引き下がらざるを得なくなるということだ。

「建前」が憲法より上に「村山談話」だけではない。
我が国には特定の勢力にとって極めて都合のいい「建前」があるいわゆる従軍慰安婦についての「河野談話」、教科書検定の「近隣諸国条項」「児童の権利条約」「男女共同参画社会基本法」などがその典型だが、彼らはそれらを前面に押し立てて主張を展開する。

 「村山談話」を含めてこれらには何れも出自や根拠に問題がある。そのことは政府関係者もよく分かっている。しかし、何れも政府によってオーソライズされたものであるがゆえに、これらの「建前」を前面に出されると政府関係者は引き下がらざるを得なくなるのだ。田母神氏の論文発表から生じている一連の問題はこのような構図が存在することを明るみに出した。

 このような「建前」が存在する限り、教育基本法を改正し、憲法を改正しても、それらは何れも「建前」に服するものでしかない。奇妙なことだが、これらの「建前」が憲法にも教育基本法にも優位し、形骸化させるのである。 では、
その解決策は、ということになるが、「建前」自体の相対化以外になかろう。特定勢力が「錦の御旗」として押し立てている「建前」をその出自や根拠に問題があることを明らかにし、根本的に見直していくことが、これらの「建前」にわが国の政治や行政−外交・教育が乗っ取られることを阻止する唯一の方法であろう。特定勢力による壟断(ろうだん)を許してはならない。2009.1.14(やぎ ひでつぐ)

 

歴史共同研究 埋まらぬ溝

中国「天安門」削除を

【北京=野口東秀、矢板明夫】日中両国の有識者による歴史共同研究で、民主化連動を武力鎮圧した天安門事件(1989年)に関する日本側の記述を中国側が「極めて敏感」な問題として削除するよう求めていることが関係者の証言で明らかになった。

中国側か「愛国主義教育」と称して”反日教育”を行っているとの日本側の見解にも、中国側は強く反
発しているという。天安門事件から20年となる今年は「政治的に敏感な年」 (中国当局者)で、世革き締めを強化する中、中国政府は国民を刺激しかLない記述には神経をとがらせており、研究報告章公表が大幅に遅れる原因にもなっている。

 研究をめぐっては昨年末にまとめの報告書が発表される予定だった。当初は南京事件(1937年)などに関する記述が注目されていたが、関係筋によると、日中戦争史の部分について双方が「両論併記」の形で簡単に触れることで合意したという。

”反日教育”見解にも猛反発

 しかし、戦後の日中関係史の部分で、双方の意見の相違が露呈した。天安門事件(6月4日)については、日本国民の現代中国に対する関心を高める大きな出来事として、日本側は「避けて通れない史実」として論文に盛り込んだが、中国側は「今年は事件20周年」で敏感な問題と懸念を示したという。天安門事件の死者数は数百人とも11000人以上ともいわれるが、真相は公表されていない。再評価を求める声もあるものの、「結論が確定している」とする中国政府は「反革命暴乱」とした公式評価を変えようとしていない。

 また、日本側は戦後の日中関係に閲し、「中国政府の青少年に対する愛国主義教育が日中戦争の歴史を過度に強調、戦後の日本を客観的に評価していないことが両国関係に悪影響を与えた」との趣旨の記述をしているが、中国側はこれにも猛反発し削除を求めてきたそうだ。 中国側の学者は報告書に対する国民感情を考慮していることを示唆しており、中国側が日本側に要請する形で、報告公表の時期を遅らせているとの指摘もある。(情報源:産経新聞一面、H21.1.16)


日中歴史共同研究 日中両国政府主導で2006年未にスタートした双方の有識者による歴史共同研究。日中からそれぞれ10人が参加し、日本側は北岡伸一東大法学部教授、中国側は社会科学院近代史研究所の歩平所長が座長。「古代・中近世史」とアへン戦争以降の「近現代史」の分科会があり、会ごとに意見交換し論文を作成する。論文に関する討議は非公開とされる。報告書の発表は当初、昨年7月だったが、その後、昨年末への変更後、、現在は「今年の春」と遅れている。

チャイナスクールの実態も背景として無視できない。彼らの国家観、歴史観、愛国心を披露してほしいものだ(ヤフー検索)。


ご都合主義の「中米国=チャイメリカ」諭
 
今年、建国60周年、天安門事件20周年など、10年単位の記念日がめじろ押しの中国で、記念行事のトップは、米中国交正常化(1979年1月日)30周年。カーター元大統領を筆頭に、元高官や歴代駐中国大使らが加わった大型代表団が訪中、北京でシンポジウムなどに参加し、胡錦涛国家主席ら首脳と会談した。

 「世界を変えた」ニクソン訪中(72年)から7年後の米中国交正常化は、中国自身と米中関係を変える出発点だった。78年12月、中国は改革・開放へ大転換したが、その時には数カ月の難交渉の末、米中は正常化で合意していた。いずれも故郭小平氏の決断による。郭氏は急務の経済再建には、米国との協調が必要と考えていた。

 カーター氏は今回の胡主席との会談の中で、正常化後、郭氏を招請した当時を回顧し、「驚いたことに、即刻受諾の返事があり、しかも2週間滞在とあった」と述べた。実際には郭氏の米国滞在は1月末から約1カ月に及び、経済協力をアピールし続けた。

 郭氏の訪米に同行した故李慎之中国社会科学院米国研究所長らは、ドルの調達に奔走したと関係者はいう。中国の外貨準備高は1億j余りしかなく、外貨制限は厳格な時代だった。それから30年、中国は2兆j近い外貨を保有し、米国債の最大の受け入れ国になった。奇跡的というほかない。 中国が米国の市場と資本をフルに活用して経済成長を続けた結果だが、それによって両国の関係は緊密化する一方、力関係も大きく変わった。特に世界金融危機で米国が経済・財政危機に直面して以来、米側では中国との協力強化論がl段と強まっている。

 訪中したプレジンスキ−元大統領補佐官はシンポジウム(13日)で、持論の「(米中2カ国による)G2」構想を展開、米側には米中一体を表す「中米国(
CHIMERICA=チャイメリカ)」という表現も登場した。昨年秋と今年初めに相互開催した米中経済戦略対話では、米側の低姿勢が目立ち、為替レート問題など通商上の摩擦よりも、多面的な政策協調が主要な議題になったという。

 大統領特使として訪中したネグロボンテ国務副長官は記者会見(8日)で、
「過去のどの時より良好な米中関係はブッシュ政権の遺産」とし、オバマ次期政権もこの遺産を引き継ぐと強調した。米政権内には対中強硬派は不在と中国紙「環球時報」 (9日付)は8年前との変化を指摘する。

 米側の対中積極論を、中国指導部も歓迎しているが、中国の専門家らは概して冷淡だ。金融危機やイラク問題で、中国の協力を得るための実用主義にすぎず、中国独自の立場、利益を守るペし、といったものだ。台湾問題はじめ、中東など地域間題から安全保障問題まで、米中は一体化にほど遠い。

 米中シンポジウムで、熊光楷・元軍副総参謀長は、軍事交流強化の必要性を指摘する一方、
中国の最大関心事は主権と領土保全であるとし、台湾問題で米中合意を守るよう要求、台湾向け武器輸出を牽制した。台湾問題に限らず、米中関係は協調と対抗を繰り返してきたが、それは中国政権内の複雑な権力構造の反映でもあった。

 
米中一体論は、中国の政治・社会の多元性を軽視したご都合主義にみえる。一体化論者は、中国国内の民主化や人権状況に言及することはないが、民主主義の原理を主張し続ける米国こそ、中国人多数の尊敬を受けてきたことを忘れてはならない。 (中国総局長)

情報源:産経新聞H21.1.16 「チャイナ.com 」伊藤正