米政府、素早い対応
【ワシントン"佐々木類】東日本大震災を受けて米政府は空母派遣をいち早く決定し、オバマ大統領が激励の言葉を送るなど素早い反応をみせた。同盟国日本の危機を心情的だけでなく、安全保障面からも重大視していることを具体的行動で示した。

「悲痛な思いだ」。オバマ氏は11日の記者会見でこう述べ、日本への全面的な支援を約束した。大統領は11日午前4時ごろ、デーリー大統領首席補佐官から地震発生の第一報を伝えられ、直後に「日米間の友情と同盟は揺るぎない」との声明を発表。同9時半にはナポリターノ国土安全保障長官らから報告を受けるなど、日本の被災状況を注視し続けている。

最近の日米関係には、沖縄県民へ侮辱的な発言をしたメア前国務省日本部長の更迭などで閉塞感が漂っていただけに、迅速な支援を通じて関係を深化させたいとの思いもあったようだ。

原発爆発 推進掲げる大国も衝撃 日本の失点米中露教訓
放射性物質の漏れが起きた福島第1原発の被害の行方を、中国、ロシア、米国の原発推進国は最大限の関心を持って注視している。ただ各国に推進の立場を変更する考えは現時点ではなく、事態の悪化が政策の見直し論議につながることには警戒感を隠せずにいる。(北京川越一、モスクワ遠藤良介、ワシントン柿内公輔)

 「計画変更ない」
中国環境保護省の張力軍次官は12日の記者会見で「原発発展計画を変更することはない」と宣言した。福島第1原発1号機で爆発が起きる前の発言だが、原発開発にかける決意は揺らぐどころか、さらに勢いづく司能性さえある。経済急発展に伴い、電力需要が拡大する中国は、環境汚染の元凶である石炭を使った火力発電から原発への移行を着々と進め、稼働中の原発は13基。建設中の原発は20基を超える。

 2008年の四川大地震をはじめ、中国では地震が多発し、昨年5月には広東省深洲の大亜湾原発で燃料棒にひびが入る事故も起きたが、張次官は「日本の放射性物質漏れは影響を及ぼさない」と意に介さない。中国が狙うのは"原発輸出国"への転身だ。今年1月には使用済み核燃料からウランなどを取り出す再処理技術の開発実験に成功。
中国にとって日本の"失点"は追い風にさえなる。

 ロシアも世界各地で原子力発電所の受注攻勢をかけ、"原発覇権戦略"を鮮明にしてきた。日本の重電メーカーから先端技術を導入する協調路線も模索していただけに、福島第1原発の事故の衝撃は大きい。ロシアは旧ソ連時代の1986年にチェルノブイリ原子力発電所事故を経験しており、極東部では大気中の放射線レベルを測定する頻度を高めて警戒している。ロシアは原子力を石油、天然ガスに次ぐ戦略的エネルギーと位置づけ、国策原子力企業「ロスアトム」が中国やインド、ベトナムなどで広範に原発建設を受注して存在感を増している。

 福島原発の事故を機に「技術力にかかわらず、地震地帯で原発を建設することの危険性」を指摘する専門家の見解も出始めた。果敢な海外展開に一定の影響が出る可能性もある。

 見直し論再燃も

 一方、輸入石油依存から脱却を目指す米政府は、ブッシュ政権下の2005年成立のエネルギー推進法で、1979年のスリーマイル島原発事故以来停滞していた原発の推進へ転換。オバマ大統領も昨年2月、「米国に安全でクリーンな次世代原発を建設しなければならない」とし、約30年ぶりの原発新設に融資保証を供与すると発表した。

 日本の被害を「日本政府の管理下にある」(国務省高官)と見守る姿勢だが、「世界の原発に重大な問題」(米紙ウォールストリート・ジャーナル)という論評も目立ち、見直し論議が再燃する可能性もある。



 IAEA危機感早期に調査団

 【ロンドン=木村正人】国際原子力機関(IAEA)は12日、東日本大震災で自動停止した福島第1原発(福島県)の建屋で爆発が起きたことに危機感を強めている。日本政府に対し「いかなる技術的な支援も.提供する用意がある」との声明を出すとともに、日本の経済産業省原子力安全・保安院と連絡を取りつつ、早期に調査団を派遣するものとみられる。

 IAEAは日本政府から福島第1、2原発、東海原発(茨城県)、女川原発(宮城県)の4カ所計11基の原子炉が自動停止し、放射性物質の漏れはないと連絡を受けた。しかし、福島第1原発については、炉心溶融が進んでいる可能性が指摘され、さらに建屋で冷却用水素ガスによるとみられる爆発が起きたことで、事態を深刻に受け止めている。

 世界原子力協会(本部ロンドン)によると、世界の原子炉の20%は地震活動が活発な地帯に建設されており、フランスでは「1干年に1度の確率で起きる大地震の2倍の衝撃にも耐えられる構造になっている」という。耐震性の高いはずの日本の原発が被害を免れなかったことで、IAEAとしても新たな対応を迫られそうだ。情報源:産経新聞H23.3.13