書籍紹介 ものと人間の文化史『橘』吉武利文書
垂仁天皇は田道間守(たじまもり)に命じ、
常世国に遣わして、非時香栗(ときじくのかぐのこのみ)を求められた。いまの橘である。 橘は明日香の橘寺、京都御所の内裏に植えてある右近の橘・左近の桜で知られているがその意味を知っている人は少ない。
著者は何かに導かれて、橘に関する文献や現地をしらべ、約四年かかって完成した「ものと人間の文化史」である。
明日香の橘寺を訪れたとき、原種の「橘」に魅入られて、また、日本種が減少しているのを知り、種から苗木を育てて、植樹することを志す宮田紀子(三重県津市)さんが、橘の話しかしない吉武さんとネットワークが出来た。この本は、みかんの一種としか知識のないものに、橘に関する奥の深いものを学ばせてくれるとともに古代を知る手がかりになる。
全国一の宮巡拝から始り、元冠の役敵味方鎮魂地球平和祈願と、モンコルまでに及び、つづいて伊勢国北畠異教・織田信長軍の敵味方鎮魂へと広がり、こんどは田道間守の非時香果の橘の苗木を全国一の宮に植樹し、神木に育てようという動きとなった。
人名としての橘、歌に詠まれた橘、橘の意匠、橘風土記と内容の奥は深いものがある.全国の橘氏が集合するなど、橘の香りとともに、日本に爽やかな風が吹いてくるようである。 (法政大学出版局発行・本体二千七百円税別)
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